契約条項本文

契約の一般条項を勉強しよう|契約不適合責任-法律上の原則

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、契約不適合責任条項に関連して、契約不適合責任の法律上の原則について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

契約不適合責任とは

契約不適合責任は、売買契約において、

  • 物の契約不適合(契約の目的物が引き渡されたものの、それが契約の内容に適合していなかったという不完全履行)
  • 権利の契約不適合(契約の目的である権利が移転されたものの、それが契約の内容に適合していなかったという不完全履行)

があった場合に、売主が負う担保責任のことであり、売買以外の有償契約(例えば請負契約など)にも準用されています(民法559条)。

担保責任で買主が有する権利としては、

  • 追完請求権(民562)
    1. 修補請求権
    2. 代物請求権
    3. 不足分引渡請求権
  • 代金減額請求権(民563)
  • 損害賠償請求権(民564、民415)
  • 解除権(民564、民541・民542)

の4つがあります。

売主の帰責事由は、③損害賠償請求の場合を除き、不要です(③も立証責任は売主にあるため、実際は免責事由)。

なお、契約不適合が買主の帰責事由によるものである場合は、買主の4つの権利はすべて否定されます。

担保責任の内容権利行使条文
①追完請求権民法566条2項「前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない」
②代金減請求権民法563条3項「第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない」
③損害賠償請求権民法415条1項但書「ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」(※)
④解除権民法543条「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない」

(※)債務者の帰責事由による契約不適合だが、債権者に過失がある場合は過失相殺(民法418条)

以下、順に見てみます。

本記事では、いわゆる債権法改正(平成29年民法改正/令和2年4月1日施行)のことを改正と言っています

物の契約不適合

物の契約不適合とは、契約の目的物が引き渡されたものの、それが物の種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合していなかったという不完全履行があった場合です。

基本的に同じ規律となっていますが、物の性状(種類/品質)に関する契約不適合と、数量に関する契約不適合に分けて考えることができ、後者については担保責任の期間制限がありません(後述)。

追完請求権(民法562条)

引渡物に契約不適合があったときは、買主に履行の追完請求権があります(民法562条)。

追完請求権には、

  • 修補請求権
  • 代物請求権
  • 不足分引渡請求権

があり、追完内容の選択権は、第一次的には買主にあります(本文)。

ただ、買主の選択しようとする履行の追完の方法と、売主が提供しようとする追完の方法とが食い違う場合があり得ます。

この場合、買主に不相当な負担を課するものでないときには、売主に選択権があります(ただし書)。買主に追完方法の第一次的な選択権を与えつつも、一定の場合には売主の提供する追完方法が優先する旨の規定を設ける必要があるとの趣旨とされています(部会資料75A・13頁)。

▽民法562条

(買主の追完請求権)
第五百六十二条
 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない

なお、追完請求権にも履行不能の場合の規律(民法412条の2)は適用されるので、追完が不能の場合には、追完請求はできないことになります(→買主は、代金減額請求、損害賠償請求、解除という他の手段を行使することになる)。

部会資料75A・13頁

 なお、中間試案第3 5、4⑴では、ただし書で履行請求権の限界事由がある場合の規律が置かれていたが、債務の履行が不能である場合の規律(部会資料68A第1、2)が追完請求権にも適用されることは明らかであると考えられることから、素案⑴ではこれを重ねて取り上げないこととしている。

代金減額請求権(民法562条)

引渡物に契約不適合があったときは、不適合の程度に応じて、買主に代金減額請求権があります(民法563条)。

代金減額請求は、不適合部分に関する一部解除と同様に機能するため、解除の場合とパラレルな要件が定められています。

つまり、1項は催告解除(民法541条)、2項は無催告解除(民法542条)、3項は債権者の帰責事由ある場合の解除不可(民法543条)と、それぞれ対になっています。

▽民法563条(※【 】は管理人注)

(買主の代金減額請求権)
第五百六十三条
 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
追完不能
 履行の追完が不能であるとき。
追完拒絶確定的追完拒絶)】
 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
定期行為における履行遅滞
 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
その他追完見込なし
 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない

損害賠償請求権 / 解除権(民法564条参照)

損害賠償請求権と解除権についての規律は、債務不履行一般と同様です。

▽民法564条

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第五百六十四条
 前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

債務不履行による損害賠償請求権解除権については、以下の関連記事にくわしく書いています。

▽関連記事

契約の一般条項を勉強しよう|債務不履行による損害賠償請求

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契約の一般条項を勉強しよう|債務不履行による解除(法定解除)

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担保責任の期間制限(民法566条)

物の性状(種類又は品質)に関する契約不適合については、担保責任に期間制限があり、不適合を知った時から1年以内通知が必要とされています(民法566条)。この通知を怠ると、買主は担保責任を追及する権利を失います。

つまり、通知義務失権、という枠組みです。

この期間制限は、消滅時効の一般原則を排除するものではないとされています(不適合を知った時から5年、引渡し時から10年。民法166条1項)。なので、担保責任は、不適合を知って通知により権利を保存したケースでは、知った時から5年/引渡し時から10年、ずっと不適合を知らなかったケースでも、引渡し時から10年の消滅時効にかかります。

なお、目的物の引渡しの時に売主が悪意又は重過失である場合には、担保責任の期間制限は適用されません(ただし書)。

▽民法566条

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条
 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

ひとつ注意点として、数量に関する契約不適合は、この期間制限の対象となっていません。

これは、消滅時効の一般原則と異なる短期の期間制限を設ける趣旨(①目的物の引渡し後は履行が終了したとの期待が売主に生ずることから、このような売主の期待を保護する必要があること、②物の性状の契約不適合の有無は目的物の使用や時間経過による劣化等により比較的短期間で判断が困難となるから、短期の期間制限を設けることにより法律関係を早期に安定化する必要があること)が妥当しないからとされています。

部会資料75A・24~25頁

 素案⑴では、目的物の性状に関する契約不適合のみを取り上げ、数量に関する契約不適合は対象としていない。…(略)…特定物売買であるか不特定物売買であるかを問わず、性状に関する契約不適合の場合と異なり、数量不足は外形上明白であり、履行が終了したとの期待が売主に生ずることは通常考え難く、買主の権利に期間制限を適用してまで、売主を保護する必要性は乏しいと考えられる。また、数量不足の場合は、性状に関する不適合と異なり、目的物の使用や時間経過による劣化等により比較的短期間で瑕疵の有無の判断が困難となることから、法律関係の早期安定という期間制限の趣旨が妥当しない場面が多いように思われる。

ただし、商人間の売買の場合は、商法526条2項が適用されます。

つまり、商人間売買については買主に検査・通知義務があり(商法526条1項)、これを怠った買主は担保責任を追及する権利を失うことがあります(同条2項)。具体的には、

  • 不適合を発見したときは直ちに通知
  • その不適合が直ちに発見することができない性質のものであるときは、6か月以内に発見して直ちに通知

をしなければ、買主は失権します。

ちなみに、これは民法とは別に担保責任を規定しているわけではなく、民法上の担保責任に前提条件を課したものです。

▽商法526条

(買主による目的物の検査及び通知)
第五百二十六条
 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

権利の契約不適合(民法565条)

権利の契約不適合は、契約の目的である権利が移転されたものの、それが契約の内容に適合していなかったという不完全履行があった場合のことで、これには、

  • 一部他人の物
  • 他人の権利(用益権)の付着
  • 他人の権利(担保権)の付着

の場合があります。

▽民法565条(※【 】は管理人注)

(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
第五百六十五条
 前三条の規定【=追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権/解除権】は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

権利の契約不適合が何なのかは、改正前民法での権利の瑕疵と比べると多少イメージしやすくなるのではと思います(管理人の感覚)。

改正前民法での権利の瑕疵と、改正後の権利の契約不適合を比べると、以下のように若干位置づけが変わっています(赤字部分が変わった部分)。

【改正前と改正後の対比】

改正前 改正後
権利の瑕疵 他人物売買 全部他人の物(改正前561条,562条) 契約不適合として扱わない(債務不履行一般として処理)
一部他人の物(改正前563条,564条) 権利の契約不適合
数量不足または一部滅失(改正前565条) 物の契約不適合
他人の権利の付着 用益権の付着(改正前566条) 権利の契約不適合
担保権の付着(改正前567条) 権利の契約不適合
物の瑕疵 隠れた物の瑕疵(改正前570条) 物の契約不適合

全部他人物の場合が債務不履行一般として処理されるのは、物の契約不適合も、目的物の引渡し自体がないような場合は債務不履行一般として処理されることとパラレルに考えられためです。

つまり、移転権利について移転自体がないのは、引渡物について引渡し自体がないのと同じだろう、ということです。

部会資料84-3・13頁(※【 】は管理人注)

 要綱仮案第30の6は、権利の「全部又は一部」を移転しない場合について、同3から5まで【=3は売主の追完義務、4は買主の代金減額請求権、5は損害賠償の請求及び契約の解除】を準用するとしているが、これらの準用規定は、目的物が引き渡されたもののそれが契約の内容に適合していなかったという不完全履行の場合についての規律であり、目的物の引渡しもない・・・・・・・・・・ような単純な不履行の場合には債務不履行の一般則が適用されることを想定している。すなわち、売主が買主に権利の全部を移転しない・・・・・・・・・・・場合は、単純な不履行の場面であり、債務不履行の一般則をそのまま適用すれば足りると考えられる。そこで、権利の一部を移転しない場合について規律することとし、「全部を移転しない場合を除外することとしている。実質的な規律を変更するものではない。

また、権利の契約不適合に関しては、物の契約不適合にあったような担保責任の期間制限はありません。

これは、物の契約不適合におけるような短期の期間制限を設ける趣旨(①履行が終了したとの売主の期待が生じる、②比較的短期間で契約不適合の判断が困難となる)が妥当しないため、とされています。

部会資料75A・24頁

 民法第564条及び第566条第3項は、担保責任の権利行使につき「事実を知った時から一年以内」という期間制限を設けている。しかし、権利移転義務の不履行については、売主が契約の趣旨に適合した権利を移転したという期待を生ずることは想定し難く短期間で契約不適合の判断が困難になるとも言い難い。そこで、目的物の性状に関する契約不適合について論じられているような、消滅時効の一般原則と異なる短期の期間制限を必要とする趣旨が妥当しないと考えられる。そこで、同法第564条及び第566条第3項は、単純に削除する必要がある(中間試案第3 5、8と同旨)。

担保責任免除特約の有効性(民法572条)

担保責任を負わない旨の特約(担保責任免除特約)も有効ですが、売主が知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、担保責任を免れることができないとされています(民法572条)。

▽民法572条(※【 】は管理人注)

(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条
 売主は、第五百六十二条第一項本文【=追完請求権(修補請求権/代物請求権/不足分引渡請求権)】又は第五百六十五条【=権利の契約不適合】に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

有償契約への準用(民法559条)

契約不適合責任は、売買以外の有償契約(請負契約など)にも準用されます(民法559条)。

▽民法559条

(有償契約への準用)
第五百五十九条
 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

結び

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、契約不適合責任条項に関連して、契約不適合責任の法律上の原則について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等・参考文献

主要法令等

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民法(債権関係)改正の資料

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