広告法務

ステマ規制|適用範囲-適用対象者と適用時点

今回は、広告法務ということで、ステマ規制の適用対象者と適用時点について見てみたいと思います。

本記事では、世の中に存在するステマ関連のルール全般ではなく、景品表示法上の不当表示として新たに指定されたステマ告示のことを、ステルスマーケティング規制(ステマ規制)と表記しています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

ステマ規制の適用対象者

ステマ規制の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)です。

企業から広告・宣伝の依頼を受けた広告代理店、インフルエンサー、アフィリエイター等の第三者は規制の対象とはなりません。また、媒体事業者(マスメディア等)も、同様に対象とはなりません。

つまり、違反があった場合に、景品表示法違反があったとして措置を受けるのは、インフルエンサー等ではなく、事業者(広告主)になります。

これは、何かステマ規制に特有のルールが設けられてそうなっているのではなくて、表示規制の適用対象者に関する景品表示法の従来の考え方どおりに判断するとこうなる、という話です

ただ、なぜこうなるのかは、かなりわかりにくいように思います(広告を作って出しているのは代理店なりインフルエンサーなりなんじゃないの?という素朴な疑問)。

そこで、適用対象者に関する一般的な考え方(供給主体性表示主体性)について若干見てみたいと思います。

表示規制の適用対象者に関する考え方①-供給主体性

表示規制の適用対象となるのは、「自己の供給する」商品・役務の取引に関する事項について表示を行う場合です。これを供給主体性と呼びます。

これは、条文の文言でそうなっています。

▽景品表示法2条4項

 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

例えば、商品のメーカー卸売業者小売業者といった製造・販売ルート上にある事業者は、いずれも供給主体性を満たします。

これに対して、広告代理店媒体事業者(マスメディア等)は、商品・役務の広告の制作などには関与していても、その商品・役務は、広告代理店等にとっては自己の供給する商品・サービスでは通常ありませんので(共同して供給としているとみられるような特殊な事情がある場合は別)、供給主体性を欠く、とされます。

表示に関するQ&A[Q3]|消費者庁HP

 当社は広告代理店です。メーカーとの契約により、当該メーカー商品の広告宣伝を企画立案した結果、当該商品の品質について不当表示を行ってしまいました。この場合、広告代理店である当社も景品表示法違反に問われるのでしょうか。

 景品表示法の規制対象である「広告その他の表示」とは、事業者が「自己の」供給する商品・サービスの取引に関する事項について行うものであるとされており、メーカー、卸売業者、小売業者等、当該商品・サービスを供給していると認められる者により行われる場合がこれに該当します。
 他方、広告代理店メディア媒体(新聞社、出版社、放送局等)は、商品・サービスの広告の制作等に関与していても、当該商品・サービスを供給している者でない限り、表示規制の対象とはなりません。しかしながら、広告代理店やメディア媒体は、広告を企画立案したり、当該広告を一般消費者に提示する役割を担うことにかんがみ、当該広告に不当な表示がなされないよう十分な注意を払ってください。

アフィリエイターも、通常はその商品・役務を自ら供給する者ではありませんので、供給主体性を欠き、表示規制の適用対象とはなりません(西川康一「景品表示法」(第6版)54頁等参照)。

ステマ告示運用基準では、以下のように言及されています。

▽ステマ告示運用基準 第1(注)

(注) 告示は、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)第5条第3号の規定に基づくものであり、告示においても景品表示法に規定される定義が前提となる。告示の対象となるのは、景品表示法第2条第1項に規定する「事業者」が行う同条第4項に規定する「表示」である。したがって、事業者でない者が行う行為については、何ら告示の対象となるものではない。なお、事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないようにするためには、事業者が第三者の表示において、事業者の表示であることを明瞭にしなければならないことの結果として、第三者の表示に対しても一定の制約が事実上課せられることとなるが、かかる制約は、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択を確保するという景品表示法の目的達成の観点から行われるものであり、第三者の自由な表現活動を不当に制約しようとするものではない

なお以下の部分は、広告主にステマ規制をかける結果として、インフルエンサーやアフィリエイター等の表現にも事実上一定の制約がかかることにはなるが、それは消費者の選択を誤らせないという景表法の目的からの合理的な制約であるからやむを得ない、ということです(管理人的な理解)

表示規制の適用対象者に関する考え方②-表示主体性

次に、表示規制の適用対象となるのは当該表示をした主体であるところ、誰がその表示をしたと捉えるのか?というのが表示主体性の話です。

条文でいうと、景品表示法5条は、不当表示について「表示をしてならない」としているので、この表示行為をした者は誰と捉えるのかという解釈問題になります。

▽景品表示法5条

(不当な表示の禁止)
第五条
 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない
 (略)

これについては、不当表示の内容の決定に関与した事業者と解釈されており、「決定に関与」には、

  • 自ら又は他の者と共同して、積極的に当該表示の内容を決定した場合
  • 他の者の表示内容に関する説明に基づき、その内容を定めた場合
  • 他の者にその決定をゆだねた場合

があるとされています。

ちなみに、ひとつの事業者に絞られるとは限らず、内容の決定に関与した事業者が複数認定されることもあります。

表示に関するQ&A[Q2]|消費者庁HP

 景品表示法に基づく表示規制の対象となる事業者の範囲を教えてください。

 景品表示法は、不当な表示による顧客の誘引を防止するため、事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について、不当な表示を行うことを禁止しています(同法第5条第1項)。また、不当表示が行われた場合、消費者庁長官及び都道府県知事は、当該行為を行った事業者に対し、その行為の差止め又はその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができます(同法第7条第1項)。
 このような規制の趣旨から、不当な表示についてその内容の決定に関与した事業者が、景品表示法上、規制の対象となる事業者となります。この場合の「決定に関与」とは、自ら又は他の者と共同して積極的に当該表示の内容を決定した場合のみならず、他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合や、他の者にその決定をゆだねた場合も含まれます。この場合において、当該表示が景品表示法第5条第1項に規定する不当な表示であることについて、当該表示の決定に関与した者に故意又は過失があることは要しません。

ステマ規制でいうと、広告主は、まず、供給主体性は当然満たしています。

また、広告主が、例えばアフィリエイト広告の内容を知らないといっても(また一般的な注意喚起を促していたとしても)、上記③のように”他の者にその決定をゆだねた場合”も「決定に関与」に含まれますので、表示主体性も満たします。

なので、広告主がステマ規制の適用対象者となっているというわけです。

なお、表示主体性の話は、ステマ規制の場合、不当表示の該当要件とも内容的にオーバーラップしているので(※)、知っておいて損はないと思います。「決定に関与」がキーワードになります

(※)ステマ規制の不当表示該当要件の1つめである「事業者の表示であること」は、表示内容の決定に関与したと認められること、とされている

ステマ規制の適用時点(時的範囲)

施行日前に第三者に行わせた表示であっても、施行日後において事業者の表示であると判断される実態にある場合(例えば、施行日後も当該表示の作成者と連絡がつくなどして事業者が表示を管理できる状態にある場合等)は、施行日後の表示が本告示の対象となる可能性がある、とされています(ステマ告示パブコメNo.194、196)。

これは、遡及適用しているわけではなく、施行日(2023年10月1日)以後も事業者がその表示をし続けていると判断できる場合は、その継続的な(施行日以後の)表示に対してステマ規制を適用する、という考え方である旨が説明されています。

▽ステマ告示パブコメNo.194

 告示公布前になされた、委託先を用いた事業者の表示を、本告示の適用除外とすることを告示又は運用基準に明記いただきたいです。
(理由)
 告示案に則ると、施行前から継続して表示されるウェブ上の表示について、施行日前は適法だったものが、施行日後は違法になるということになりますが、これは法の不遡及の原則に反するものと考えます。
 委託先を用いた事業者の表示については、その表示の修正又は削除は、事業者でコントロールできるものではありません。事業者自身が修正又は削除できない場合でも、表示の修正又は削除ができなかったとして法令違反となってしまうことは避けたく、告示公布前に委託先を用いてなされた表示については、本告示の適用除外とすることを告示又は運用基準に明記いただきたいです。

 本告示における「事業者の表示」との要件は、既に景品表示法に規定されているものであり、告示施行の前後によって、その適用の有無に変更が生じるものではありません。
 本告示全体についていえば、一般的に、立法によるにせよ、告示によるにせよ、新たな法規制は、施行日後に生じた事実に適用されるものであり、施行日前に遡及することはありません。
 アフィリエイト広告等、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であっても、その後、表示の作成者である第三者と連絡がつかず、事業者が表示を管理できない状態にあるなど施行日後において事業者の表示と判断される実態を欠いている場合には、本告示の対象となることはありません
 しかし、事業者が施行日に第三者に行わせた表示であっても、施行日後も、当該表示の作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にあるなど施行日後において事業者の表示であると判断される実態にある場合は、施行日後の表示が本告示の対象となる可能性があります

▽ステマ告示パブコメNo.196

 本告示の制定により規制対象になるのは、告示施行後に事業者又は第三者が行う表示行為のみであるとの理解でよいか。特にアフィリエイト広告については、施行前になされた表示まですべて確認し、必要な対応をとることは事実上不可能であるため、配慮されたい。

 一般的に、立法によるにせよ、告示によるにせよ、新たな法規制は、施行日後に生じた事実に適用されるものであり、施行日前に遡及することはありません。
 アフィリエイト広告等、事業者が施行日前に第三者に行わせた表示であっても、その後、表示の作成者である第三者と連絡がつかず、事業者が表示を管理できない状態にあるなど施行日後において事業者の表示と判断される実態を欠いている場合には、本告示の対象となることはありません
 しかし、事業者が施行日に第三者に行わせた表示であっても、施行日後も、当該表示の作成者と連絡がつくなど事業者が表示を管理できる状態にあるなど施行日後において事業者の表示であると判断される実態にある場合は、施行日後の表示が本告示の対象となる可能性があります

ステマ規制の違反に対する措置

消費者庁の調査の結果、不当表示に該当すると判断された場合、事業者(広告主)は、措置命令(景品表示法7条)の対象となります。

また、措置命令を受けたことは消費者庁HPで公表されます(▷掲載ページはこちら(景品表示法関連報道発表資料))。

措置命令というのは、要するに違反を是正するための改善命令のことで、誤認状態を解消するための周知(公示)や再発防止などが命じられます

なお、課徴金納付命令(景品表示法8条)の対象にはなりません。

なぜかというと、不当表示(景品表示法5条)には、①優良誤認表示(1号)、②有利誤認表示(2号)、③その他の不当表示(3号)という3類型が定められており、ステマ規制は③の類型として新たに指定されたものですが、③の類型はもともと課徴金納付命令の対象になっていないためです(以下の下線部参照)。

▽景品表示法8条1項(※【 】は管理人注)

(課徴金納付命令)
第八条
 事業者が、第五条の規定【=不当表示の禁止】に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。…(略)…

結び

今回は、広告法務ということで、ステマ規制の適用対象者と適用時点について見てみました。

供給主体性と表示主体性の一般論については、以下の関連記事にくわしく書いています。

消費者庁HPにもステマ規制の解説ページがあります。

▽参考リンク
令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。|消費者庁HP

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等・参考文献

主要法令等

リンクをクリックすると、e-Gov又は消費者庁の該当資料に遷移します(▷消費者庁の掲載ページはこちら
  • 景品表示法(「不当景品類及び不当表示防止法」)
  • ステマ告示(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」)
  • ステマ告示運用基準(「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」)
  • ステマ告示パブコメ(「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』告示案及び『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』運用基準案に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方」)
  • 管理措置指針(「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」)
  • ステマQ&A(ステルスマーケティングに関するQ&A)

業界団体のガイドライン等

一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA) 一般社団法人クチコミマーケティング協会(WOMJ

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