今回は、電気通信事業法ということで、競争政策のための規制(非対称規制)について見てみたいと思います。
非対称規制とは、市場で圧倒的な力を持つ特定の強い会社にだけ、より厳しく重い特別ルールを課すことです。本記事は、実際の法律の条文(業規制)も見ながら、その強い会社がどのように定義され、どんな重いルールを負っているのかを解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
非対称規制とは
非対称規制とは、一言でいうと、市場で圧倒的な力を持つ特定の強い会社(ガリバー企業)にだけ、他社よりも厳しく重い特別ルールを課す仕組みのことです。
通常、法律はすべての会社に平等なルールを課すのが基本ですが、電気通信の世界では少し事情が異なります。なぜなら、NTT東西や大手携帯キャリアのように、全国に張り巡らされた巨大な通信インフラを独占・寡占している企業と、これから参入しようとする新しい企業を同じ土俵で戦わせても、公正な競争にならないからです。
そこで、インフラを握る強い会社に対して、あえてハンデキャップのように厳しいルールを課すことで、他の会社がビジネスをしやすい環境を整え、実質的な競争を促すことを目的としています。
具体的には、他社に自社の設備を貸し出す際のルール(接続約款)を国が厳しくチェックしたり、自社グループの会社だけを不当にえこひいきすること(優先的な取扱い)を禁止したりする、といった規制が行われています。
なぜ非対称にする必要があるのか
電気通信のインフラ(電話線や電柱など)は、かつて国(電電公社など)が莫大なお金と時間をかけて全国に独占的に張り巡らせてきた歴史があります。通信が自由化されて新しい会社(新規参入事業者)がサービスを始めようとしたとき、すべての回線を自分たちだけで日本中にイチから作るのは現実的に不可能です。そのため、どうしても既存の巨大なインフラを持つ大企業の設備を「貸して(接続して)ください」と頼むことになります。
もし、圧倒的な設備を持つ大企業と、これから頑張ろうとする新規企業を、全く同じルール(対称規制)で競争させたらどうなるでしょうか。 大企業が「うちの設備は貸さないよ」「貸すけど、ものすごく高い使用料をもらうよ」と言えば、新規企業は太刀打ちできず、競争が生まれません。
そこで、他社がサービスを提供する上で不可欠な設備を独占・寡占している強い事業者の権力を抑え、他の事業者がビジネスを展開しやすい環境を整えることで、実質的な競争を促すために導入されたのが、非対称規制です。
非対称規制の具体的な内容
電気通信事業法では、回線のシェア(市場占有率)が高い事業者の設備を特別に指定し、次のような重い義務や禁止ルールを課しています。
- 接続ルールの厳格化:指定電気通信設備制度
- 市場支配的事業者への禁止行為
- M&Aなど大規模な資本変動に伴う事後審査:登録の更新
01|接続ルールの厳格化:指定電気通信設備制度
通信ビジネスでは、新しい事業者が全国に自前で回線を引くのは現実的ではないため、既存の大企業のインフラを借りて(接続して)サービスを提供することが不可欠です。そこで、圧倒的なシェアを持つインフラを「指定電気通信設備」として指定し、他社への貸出しルール(接続約款)に厳しい縛りをかけています。
① 第一種指定電気通信設備(主にシェア50%超の固定回線)(法33条)
固定電話や光ファイバーなどの「固定端末系伝送路設備」(固定のアクセス回線)で、都道府県内のシェアが50%を超える設備が対象です。事実上、NTT東日本・西日本が該当します。
これらの事業者が他社に設備を貸し出す際の条件や接続料(接続約款)は、事前に総務大臣の認可を受ける必要があります。
接続料の計算には、長期増分費用方式という厳格なルールが適用される場合があります(原価計算の厳格化)。これは、過去に実際にかかった費用ではなく、「今、最新の効率的な技術でネットワークを作り直したらいくらになるか」をシミュレーションして、安く合理的な料金を算出させる仕組みです。
条文(法33条)が長いですが、簡単に見ておくと、
- 設備の指定:1項
- 接続約款の作成・認可の義務:2項(※軽微なものは届出で済む例外規定:3項)
- 接続料の算定基準(長期増分費用方式など):4項2号、5項
- 接続会計の整理と収支状況の公表義務:13項
等となっています(以下の条文参照)。
▽電通法33条(抄)(※「…」は管理人が適宜省略)
② 第二種指定電気通信設備(主にシェア10%超の携帯電話回線)(法34条)
携帯電話などの「特定移動端末設備」と接続される回線で、業務区域内のシェアが10%を超える設備が対象です。NTTドコモ、au(KDDI等)、ソフトバンクなどの大手キャリアが該当します。
第一種ほどのガチガチの認可制ではありませんが、接続約款を作成して総務大臣に届出をする義務があり、その内容は公表されなければなりません。もし接続料が高すぎたり不当な条件があったりすれば、総務大臣から変更命令を受けます。
これも条文(法34条)が長いですが、
- 設備の指定:1項
- 接続約款の作成・届出の義務:2項
- 接続会計の整理と収支状況の公表義務:6項
等となっています(以下の条文参照)。
▽電通法34条(抄)
02|市場支配的事業者への禁止行為
指定電気通信設備を持つ大企業は、他社に回線を貸し出す(接続する)業務を通じて、ライバル会社の営業上の機密情報(いつ、どこで、どんなサービスを始めるかなど)を必然的に知る立場にあります。その立場を悪用させないため、市場支配力を持つ特定の事業者に対して厳しい禁止行為が規定されています。
① 情報の流用や不当な優遇の禁止(法30条)
第一種指定設備を持つNTT東西や、第二種指定設備を持つ事業者のうち収益シェアが一定割合(省令で25%超など)を超える事業者(事実上NTTドコモ等)に対しては、以下のような行為が禁止されています。
- 情報の目的外利用の禁止: 接続業務を通じて知ったライバル会社の情報を、自社の営業活動などに流用したり、他人に提供したりすること
- 不当な優遇・冷遇の禁止: NTT東西は「特定の電気通信事業者」に対し、NTTドコモ等は自社グループの「特定関係法人たる電気通信事業者(総務大臣が指定するNTTコムなど)」に対し、不当にえこひいき(優先的な取扱い)をして利益を与えること
- 不当な規律・干渉の禁止(第一種のみ):他社やメーカーに対して、不当な干渉や圧力をかけること
条文(法30条)も簡単に見ておくと、
- 対象となる移動体通信事業者の指定(NTTドコモ等):1項
- 接続業務に関して得た他社情報の目的外利用・提供の禁止:3項1号(NTTドコモ等)、4項1号(NTT東西)
- 特定の関連会社等への不当な優遇や、他社への不当な冷遇の禁止:3項2号(NTTドコモ等)、4項2号(NTT東西)
- 他社やメーカー・販売業者に対する不当な規律・干渉の禁止(※これはNTT東西のみが対象):4項3号
- 会計の公表義務:6項
等となっています(以下の条文参照)。
▽電通法30条(抄)
② 法31条による禁止行為と体制整備(NTT東西のみが対象)
さらに、固定回線で圧倒的な基盤を持つ第一種指定設備設置事業者(NTT東西)に対しては、通信部門と営業部門を切り離すような厳しい情報管理体制(ファイアウォール規制)など、より踏み込んだ組織管理のルール(法31条)が課せられています。
- 役員の兼任禁止:NTT東西の役員は、総務大臣が指定するグループ会社(特定関係事業者)の役員を兼任してはいけません
- 業務委託先への監督義務:子会社に業務を委託する場合でも、子会社が反競争的な禁止行為を行わないよう監督する責任を負います
- ファイアウォールの設置等:会社の中で、インフラの設置や管理を行う「設備部門」を専任で置き、それ以外の営業部門などから完全に分離して、接続に関する情報が漏れないような厳格な体制(ファイアウォール)を整備することが義務付けられています
条文(法31条)も簡単に見ておくと、
- 特定関係事業者(NTTコミュニケーションズ等)の役員との兼任禁止:1項
- 接続設備の設置や土地・建物の利用等について、他社を不利に扱うことの禁止:5項
- 業務の委託先子会社に対する監督義務:6項
- 体制の整備(ファイアウォール規制):8項、9項
- 接続業務に関して得た情報を適正に管理するため、接続業務を行う「設備部門」を他の部門から分離し、監視部門を置くといった厳格な組織体制の整備と、毎年の実施状況の報告が義務付けられています
等となっています(以下の条文参照)。
▽電通法31条(抄)
03|M&Aなど大規模な資本変動に伴う事後審査:登録の更新
第一種や第二種の枠組みがなくなり登録・届出制に移行した後も、巨大なインフラを持つ企業が他グループの通信企業を買収・合併するような場合には、競争環境を歪めないかチェックするための特別な関門が用意されています。
第一種・第二種指定電気通信設備を設置する事業者が、他グループの「特定電気通信設備」を持つ企業と合併等を行う場合、事由が生じてから3ヶ月以内に改めて総務大臣による「登録の更新」という審査を受ける義務があります(法12条の2)。
補足:独占禁止法との違い
この非対称規制は、ビジネスの一般的なルールである独占禁止法と比べるとその強力さがよくわかります。
独占禁止法は、高いシェアを持っていることそれ自体を問題にするわけではありません。高いシェアを背景にして、実際に取引を不当に拒絶したといった悪い行動(結果)が起きたときに初めて問題にする、いわば「事後規制」です。
一方、電気通信事業法の非対称規制は、「設備のシェア数値」という客観的な事実が一定基準を超えていれば、悪い行動が起きる前から直ちに特別な規制を被せる「事前規制」になっているという、独特で強力な制度になっています。
結び
非対称規制とは、インフラを握る巨人に足かせをはめ、新規チャレンジャーが公正に戦える土俵を作るためのハンデキャップ・ルールのことです。
条文の配列と併せて見ると、かつてインフラを独占・寡占していた巨人(NTT東西や大手携帯キャリア)に対して、接続約款の認可や届出(法33条・34条)でインフラの貸し出しを透明化・低廉化し、禁止行為とファイアウォール(法30条・31条)でその権力の濫用を抑え込んでいることがわかります。
私たちが様々な会社から安いスマホプランや便利なネット回線を選べるのは、この非対称規制が裏でしっかりと機能してくれているおかげと言えますね。
今回は、電気通信事業法ということで、競争政策のための規制(非対称規制)について見てみました。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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