今回は、反社排除法務ということで、関係遮断の具体的手順について見てみたいと思います。
反社チェックを実施していて、あるいは現場からの報告で、取引先がどうやら反社と関わりがあるらしい…という端緒(怪しい情報)をつかんだとき、どうするべきでしょうか。
すぐに契約解除の通知を送らなければ等、焦る気持ちになりそうですが、一度冷静になった方がいいかもしれません。不確かな情報でいきなり行動を起こすと、思わぬトラブルや訴訟に発展する危険もあります。
本記事では、反社該当性の端緒をつかんでから、実際に取引関係を遮断するまでに会社がとるべきステップを解説していきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
関係遮断とは
関係遮断とは、相手方が反社会的勢力である場合に、取引を含めた一切の関係を持たないことを指します。
具体的には、不当要求等を伴わない平穏な取引や、企業にとって経済合理性が見込める通常の取引であっても、相手が反社会的勢力であれば一切の取引を拒絶することです。すなわち、相手が反社だと知っていれば最初から契約を結ばず、事後に判明した場合は速やかに契約の解消に努めることを意味します。
疑いの度合いに応じた対応
とはいえ、実際の実務においては反社会的勢力であるという疑いの程度(濃淡)にはさまざまなケースがあり、必ずしも直ちに契約解除などの措置をとることが容易ではない場合もあります。関係遮断には法的リスク(不当な契約解除として訴えられるリスクなど)も伴うため、何でもかんでもいきなり一方的に契約解除できるわけではありません。
そこで、関係遮断の具体的手順の前に、まず疑いの度合いに応じた取引可否の判断について見ておきましょう。判断のフレームワーク(目安)としては、以下のようなものが考えられます。
レベル1:確証がある(該当する・関係がある)
これは、警察からの情報提供や、客観的で明白な証拠により反社であることが確認できた場合です。
このような場合の対応としては、ただちに取引不可と判断します。新規取引であれば契約を拒絶し、既存取引であれば暴排条項などを根拠に即刻契約を解除(関係遮断)します。
レベル2:疑いが濃い(可能性あり・確度が高い)
これは、クロという決定的な証拠(警察のお墨付きなど)はないものの、自社調査や専門家の調査により、不審な点が多く反社の可能性が高いと判断される場合です。
このような場合の対応としては、新規取引であれば取引不可(契約しない)とします。
既存取引の場合は、暴排条項での一方的な解除は訴訟リスクが伴うため、実質的な関係解消に向けた知恵を絞ります。具体的には、契約期間満了による更新拒絶、徐々に取引規模を縮小させていく、新規の追加発注には応じない、あるいは合意解除の交渉を行う、といった方法で関係をフェードアウトさせていくことが考えられます。
関係解消に向けた措置
- 取引規模の段階的縮小と、新規取引の停止
一気に契約関係をなくすことができなくても、徐々に取引の規模を縮小させていくという方法です。主要な取引先であれば、代替の取引先を確保しつつ段階的に取引を減らしていきます。ある程度のラインまで縮小したところで解消を申し出たり、新規の追加取引や発注には一切応じないようにしたりすることで、実質的に関係をフェードアウトさせていきます - 次回の契約更新を拒絶する
契約期間が明確に定められている継続的取引の場合、契約期間の満了を待って更新拒絶を行うことで、契約を終了させることができます。契約解除のようなハードルがないため、暴排の実務において有効な手段とされています - 契約の書換え(暴排条項・誓約書の導入)を求める
既存の契約に暴排条項がない場合、相手方に対して暴排条項の新設や見直しを求めたり、反社ではないことの表明確約書の提出を求めたりします。もし相手方が合理的な理由もなく書換えや提出を拒否するならば、それを理由にして「書換えに応じない以上、契約の継続はできない」として、実質的に契約解消に向けた交渉の糸口をつかむことができます - 合意解約の交渉を行う
強制解除が難しい場合、将来の法的リスクを回避しつつ事後処理を円滑に進めるために、あえて相手方と合意解除の交渉を行うことも措置の一つです。場合によっては少額の示談金を支払ってでも合意解約し、将来の大きな損害リスクを回避することが合理的な選択となることもあります - (金融取引等の場合)期限の利益を喪失させずに回収を図る
相手方が融資先などの場合、暴排条項を適用して一括返済を迫ることで相手方が倒産し、債権が回収不能になる(=会社に多大な損失が生じ、結果的に相手方に利益が残る)リスクがあります。これを避けるため、あえて期限の利益を喪失させず、約定どおりの分割弁済を継続させて債権の回収(相手方の手残り利益の最小化)を図ることも、関係解消に向けた措置の一環と考えられます
ただし、相手方である暴力団関係者(と疑われる者たち)との交渉を伴うものは、それ自体のリスクのほか、場合によっては暴排条例で禁止される利益供与に該当するおそれもありますので、弁護士等とも相談のうえ、慎重に検討する必要があります。
レベル3:疑いがある(可能性あり・確度が低い)
これは、インターネット上の風評や噂レベルの情報があり、完全なシロとは言い切れないが、確度の高い情報までは得られていない場合です。
このような場合の対応としては、条件付取引可として、継続監視(モニタリング)の対象とします。
グレーな状態のまま放置するのではなく、取引状況(不審な入出金がないか等)を厳格に監視し、いつでも契約を解除できるよう準備を整えておきます。また、誓約書(表明確約書)を新たに取り付けたり、取引条件を厳格化したりして、リスクヘッジを図ることも考えられます。
まとめ
まとめとして、政府指針の解説を確認しておきます。
指針解説によれば、反社であると完全に判明した段階だけでなく、反社であるとの疑いを生じた段階でも、関係遮断に向けた措置を図ることが大切だとされています。
▽指針解説 ⑷反社会的勢力との一切の関係遮断
反社会的勢力による被害を防止するためには、反社会的勢力であると完全に判明した段階のみならず、反社会的勢力であるとの疑いを生じた段階においても、関係遮断を図ることが大切である。
勿論、実際の実務においては、反社会的勢力の疑いには濃淡があり、企業の対処方針としては、
① 直ちに契約等を解消する
② 契約等の解消に向けた措置を講じる
③ 関心を持って継続的に相手を監視する(=将来における契約等の解消に備える)
などの対応が必要となると思われる。
ただ、いずれにせよ、最終的に相手方が反社会的勢力であると合理的に判断される場合には、関係を解消することが大切である。
なお、金融機関が行った融資等、取引の相手方が反社会的勢力であると判明した時点で、契約上、相手方に期限の利益がある場合、企業の対応としては、関係の解消までに一定の期間を要することもあるが、不当要求には毅然と対応しつつ、可能な限り速やかに関係を解消することが大切である。
関係遮断の具体的手順
冷静な事実確認と情報精査
取引先が反社会的勢力(反社)かもしれないという端緒となる情報を得た場合、まず最優先で行うべきは、客観的な事実関係の把握と情報の精査です。
怪文書やインターネットの噂、内部通報などで得られた情報には、具体的な確証がないものや、会社の内紛などで敵対者を陥れるための虚偽情報が含まれている可能性もあります。これらの情報を鵜呑みにして、反社ではない人物を反社扱いして契約を解除してしまうと、相手方から訴訟を起こされたり、損害賠償を請求されたりするリスクが生じます。
そのため、まずは自社のデータベースや、商業登記簿、新聞・雑誌などの公知情報、あるいはインターネット検索などを駆使して、多角的に情報を収集し、事実関係を精査する必要があります(情報の精査)。必要に応じて、過去の役員や主要株主、関係会社などへ調査範囲を広げたり、現地の状況を確認したりして、情報の精度を高めます(追加調査)。
同時に、その取引先の商業登記簿謄本、過去の取引履歴、契約書、さらには営業担当者へのヒアリングをまとめたメモなど、当該事案に関する一切の書類を整理し、証拠として保全します(証拠の整理・保全)。これは、関係遮断に踏み切るかどうかの判断材料となるだけでなく、将来的に訴訟に発展した場合の立証準備としても重要な作業となります。
リスクの洗い出しと法的根拠の確認
情報が整理できたら、次は取引を継続した場合と遮断した場合の双方のリスクを洗い出し、関係を解消するための法的根拠を検討します。
リスクの洗い出し
取引を継続した場合、各都道府県の暴力排条例が禁止する利益供与に違反して勧告や公表の対象となるリスクや、金融機関からの融資引き揚げ、そして何より企業としての社会的信用(レピュテーション)を決定的に失墜させるリスクなどが想定されます。
一方で、取引を遮断する場合には、相手方から危害を加えられたり、不当要求を受けたりするリスクや、契約解除の有効性をめぐって訴訟を提起され、敗訴するリスクなどが考えられます。
これら対立するリスクの内容や顕在化の可能性を総合的に洗い出します。
法的根拠の確認
そして、適法に関係を遮断するためには法的根拠が必要です。まず確認すべきは、相手方と締結している契約書に暴排条項が盛り込まれているかどうかです。
しかし、もし暴排条項が存在しなかったとしても諦める必要はなく、相手方に債務不履行がないか(債務不履行の有無)、契約書に解約告知条項や包括的な解除条項がないか(契約書の解除事由)を確認し、さらに民法の規定である錯誤無効や詐欺取消し、公序良俗違反による無効主張などが可能かどうかを検討して、一方的な契約解消を図る余地がないかを探ります。
外部専門機関(弁護士・警察)との連携
自社内での事実確認や法的根拠の検討と並行して、できるだけ早い段階から弁護士や警察などの外部専門機関と連携することが有益です。
まず、法的リスクの評価や契約解除に向けた論理構成、訴訟になった場合の証拠の揃い具合などについて、事案に精通する弁護士に意見を求め、助言を受けながら処理を進めることで、法的トラブルを未然に防ぐことができます。
また、自社の調査だけでは相手方が反社であるという確証が得られない場合には、警察に情報の提供を求めることになります(属性照会)。ただし、警察からの情報提供は最後の手段という位置づけになっています。
警察は厳格な情報管理責任を負っているため、企業からの照会に応じて情報を提供する際のルール(通達)があります。企業側が自ら可能な限りの調査を尽くしたという補充性と、関係遮断という公益目的を達成するためにどうしても警察情報が必要であるという必要性を説明しなければなりません。さらに、提供された情報が目的外に利用されたり漏洩したりしないよう、企業内に適切な情報管理体制が構築されていることを説明し、誓約書を提出することなどが求められます。
これらの要件を満たして初めて、情報の提供(原則として口頭による)を受けることができます。
組織としての対応方針の決定
調査結果やリスクの分析、そして外部専門機関からの情報や助言が出揃った段階で、会社としての対応方針を決定します。
暴力団関係者との取引を継続するか遮断するかという判断は、会社の事業遂行に大きな影響を与えかねない重要な経営判断ですので、担当者や一部署の判断に委ねるのではなく、会社の規模に応じた適正な機関、例えば取締役会や経営会議といった場において、組織として正式に決定する必要があります。
この決定プロセスにおいて重要なのが経営判断の原則です。取引先に関する情報を十分に収集し、取引を継続するリスクと遮断するリスクの双方を十分に分析・検討したうえで経営判断を下したというプロセスを、議事録などの形で残しておかなければなりません。
万が一、将来的に株主や裁判所から対応を問われた際にも、どのような事実確認とリスク評価に基づいてその結論に至ったのかを合理的に説明できるようにしておくことが、取締役の善管注意義務違反を問われるリスクを最小限に抑えるための防御策となります。弁護士から法律意見書(リーガル・オピニオン)を取得しておくことも、判断過程が適切であったことを裏付けるサポート材料となります。
関係遮断の実行と安全確保
対応方針が決定したら、いよいよ取引の遮断(契約解除)を実行に移します。
強制解除か合意解除か
解除事由となる暴排条項等が存在し、違反の事実を裏付ける証拠が十分に揃っている場合には、法的に相手方の同意を必要としない強制解除を原則として選択すべきです。
事後処理を円滑に進めるためなど、あえて合意解除の交渉を行うケースもあり得ますが、その場合でも安易な妥協は禁物であり、合意内容が反社への利益供与とならないよう慎重に検討する必要があります。
通知の方法
契約解除の意思表示は、確実に通知した事実を証明するために、配達証明付きの内容証明郵便で送付するのが一般的です。
また、相手方からのクレームや威圧的な対応を避け、従業員の心理的負担を軽減するためにも、弁護士を代理人として通知書を作成・発送し、その後の対応窓口を弁護士に一本化するやり方が多いです。
従業員等の安全確保
そして最後に忘れてはならないのが、役員や従業員の安全確保です。
関係遮断に伴い、相手方から嫌がらせや不当要求を受けるリスクはゼロではありません。そのため、契約解除の通知を行う前後に警察に状況を報告し、必要に応じてパトロールの強化や保護対策を要請しておくことが重要です。
また、自社内でも対応窓口を一本化して他の従業員が個別に対応しないようにルールを徹底し、民間警備会社を活用してオフィスや自宅周辺の警備を強化するなど、会社が責任を持って現場の従業員を守り抜く体制を敷くことが大切です。
結び
反社かもしれないという疑いから実際に関係を遮断するまでは、情報精査 → リスク・法的根拠の確認 → 外部連携 → 組織的決定 → 実行という一連のプロセスを、慎重かつ迅速に進める必要があります。
平時から手順を整備し、警察や弁護士といつでも相談できる体制を構築して、いざというときに備えておきましょう。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
反社排除に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)※法律情報はこちら
- 暴対法施行令(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令」)
- 暴対法規則(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則」)
- 政府指針(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」)|犯罪対策閣僚会議HP(≫掲載ページ)
- 指針解説(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」)|犯罪対策閣僚会議HP(≫掲載ページ)
- 組織犯罪対策要綱|警察庁HP(≫掲載ページ)
- 東京都暴排条例|東京都例規集データベース
- 東京都暴排条例Q&A(「東京都暴力団排除条例 Q&A」)|警視庁HP
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています
参考文献image