今回は、業務委託契約ということで、業務の内容に関する条項を見てみたいと思います。
システム開発やデザイン制作など、業務内容が何であれ、外部への業務委託で重要なのはまず業務内容の明記です。「どんな成果を出してもらうのか」「どこまでが業務範囲なのか」などの曖昧さがトラブルの元になりやすいところです。また請負型か委任(準委任)型かによって求められる明確化のポイントが異なりますので、あらかじめ押さえておくと便利です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
業務の内容
法律上の原則
業務委託契約は、業務の内容に応じ、請負契約になる場合と委任契約(準委任含む。以下同じ)になる場合があります。
どちらに該当するかによって適用される法律の規定が変わってきますので(請負なら請負に関する規定が、委任なら委任に関する規定が適用される)、業務委託契約書を読んだり書いたりする際には、取引のタイプを意識することが大切になります。
請負契約は、仕事の完成を目的とするものです。つまり結果です。
完成物の引渡しを要する場合と、引渡しを要しない場合(=仕事の完成だけが義務である場合)があります。
委任・準委任契約は、一定の業務の遂行を目的とするものです。つまりプロセスです。
報酬のタイプに関して、事務処理の労務に対して報酬が支払われる場合(履行割合型)と、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬が支払われる場合(成果完成型)があります。後者の成果完成型は、請負に準じて、成果物の引渡しを要する場合と、引渡しを要しない場合があります。
つまり、業務委託契約には、業務内容に応じ以下のようなタイプがあることになります。
業務委託契約の法的な分類
法的性質 | 内容 | 引渡しの要否 | |
請負契約 | 仕事の完成を約する | 物の引渡しを要しない | |
物の引渡しを要する | |||
委任・準委任契約 | 法律行為または事実行為の事務処理を委託する | 履行割合型 | - |
成果完成型 | 物の引渡しを要しない | ||
物の引渡しを要する |
本記事では、引渡しにまつわる部分は別記事(納入及び検収に関する記事)にすることとし、業務遂行や成果に関する部分に焦点を当てることにしたいと思います。
法的な分類は上記のとおりですが、社会的な分類はいくつもあり得ます(製造型の業務委託とサービス型の業務委託、など)
業務の内容に関する条項(業務内容の特定)
業務の内容でトラブルになりやすいのは、業務の範囲、完成要件、検収、追加作業(またその費用負担)などです。
以下、業務の内容に関する条項を考える際のポイントをいくつか挙げてみます。
請負契約は仕事の完成を義務としています。したがって業務の内容としては、何を完成させる(完遂する)のか、物に関するものであれば成果物、完成の基準(検収基準)、納品物の仕様・フォーマットなどが明確になるように定めます。
実際には、検収基準などは明確に定めるのは難しい場合も多いかと思います(相手との関係値、業務の性質などによって)
委任は事務処理(遂行そのもの)を義務としています。したがって、業務の範囲、作業内容・頻度・時間単位、報告義務などを定めます。
成果物がある場合の取扱いは、請負に準じて考えることができますが、検収の有無や厳格さによっては、他のファクター(検収後の対価支払いなど)も考え合わせて、請負になる場合が出てくると思われます。
下請法との関係
業務委託の内容が製造委託や情報成果物作成委託などである場合、つまり下請法の適用があり得る場合は、親事業者の義務に関する事項として、業務の内容に関して3条書面への明記(「下請事業者の給付の内容」)が必要となっていますので、これを適切に行う必要があります。
下請法は一定の要件(資本金区分と取引内容)を満たす場合に適用され、発注者である親事業者にいくつかの義務と禁止行為を課しています
印紙税との関係
請負か委任かで、印紙税の有無にも違いが出ます。
紙ベースの契約書の場合、請負のときは印紙税がかかり(2号文書)、委任のときはかからないという根本的な違いがあります。
基本契約になるときはまた別です(7号文書)
請負か委任かの区別
最後に、請負か委任かのイメージづくりのため、ある程度典型的な例を挙げてみたいと思います。ただ、請負か委任かはあくまでも個別の案件ごとに決まり、実際には区別がかなり難しいことも多くあります。
請負(引渡しを要するもの)の例としては、建築請負などがあります。
建物を完成して引き渡すことが義務となっており、”頑張って建築しましたが建物が建ちませんでした”では話になりません(契約違反)。つまり仕事の完成+引渡しを約しているわけです。
請負(引渡しを要しないもの)の例としては、運送契約などがあります。
荷物を届けることが義務となっており、これも、”頑張って運びましたが届けることができませんでした”では話になりません(契約違反)。つまり「届ける」という仕事の完成を約しているわけです。また運送業務自体に完成物があるわけではないので、完成物の引渡しを要しないタイプになります。
委任(履行割合型)の例としては、医者の医療行為などがあります。
治療に尽力しますが、完治するという結果を約しているわけではなく治療という事務の遂行が義務なわけです。
余談ですが、塾の受験指導なども委任です。”合格請負人”という触れ込みがあったりしますが、これは宣伝文句で、合格という結果を約しているわけではありませんよね。つまり受験指導という事務の遂行が義務といえます
委任(成果完成型)の例としては、弁護士の成功報酬や、不動産媒介業務の約定報酬などが考えれられます。
▽民法(債権関係)部会資料72A・12頁(※【 】は管理人注)
民法第648条第2項は、委任の報酬が事務処理の労務に対して支払われるという原則的な方式を念頭に置いたものであるが、実際にはそれ以外に、事務処理によって一定の成果が達成されたときに、その成果に対して報酬が支払われるという方式【=成果報酬型委任】もある。例えば、弁護士に対する訴訟委任において、勝訴判決を得た場合には一定の成功報酬を支払う旨の合意がされた場合や、契約の媒介を目的とする委任契約において、委任者と第三者との間に契約が成立した場合には成功報酬を支払う旨の合意がされている場合などである。…(略)…。
委任事務の処理による成果に対して報酬を支払う方式が採られた委任は、仕事の完成義務を負わない点で請負契約とは異なるものの、事務処理を履行しただけでなく、成果が生じてはじめて報酬を請求することができる点で請負に類似している。そこで、委任においてこのような報酬の支払の方式が採られた場合の報酬の支払時期については、請負の報酬の支払時期に関する民法第633条と同様の規律を置くべきである。
結び
今回は、業務委託契約ということで、業務の内容に関する条項を見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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