令和7年5月に下請法が改正されましたので(施行は令和8年1月1日から)、その内容をざっと見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
基本情報
令和7年改正の基本情報は、以下のとおりです。
▽下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律 附則1条
(施行期日)
第一条 この法律は、令和八年一月一日から施行する。ただし、附則第五条の規定は、公布の日から施行する。
なお、名称や用語にいろいろと変更があり、改正後は「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)→「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託法or取適法)と名称変更され、用語も「親事業者」→「委託事業者」、「下請事業者」→「中小受託事業者」と変更されます。
公取委HPの該当ページetcも、参考までに載せておきます。
本記事では、下請法(改正前)の全体像をざっと確認した後、改正のポイントを見てみます。
下請法(改正前)の全体像と改正箇所の確認
下請法は、適用要件→適用の効果→違反に対する措置の3stepでまとめるとわかりやすいので、これに沿って下請法(改正前)の全体像と改正箇所を確認しておくと、以下のようになります。
全体像と改正箇所の位置付け
- 1⃣ 適用要件
- 資本金区分 ←従業員基準の追加
- 取引の内容
- ①製造委託 ←対象物品に「木型その他専ら物品の製造に用いる物品」を追加
- ②修理委託
- ③情報成果物作成委託
- ④役務提供委託
- ⑤特定運送委託
- 2⃣ 適用の効果
- 委託事業者
親事業者の4つの義務- ①取引条件の明示義務 ←電磁的方法による提供を承諾の有無にかかわらず容認
- ②取引記録の作成・保存義務
- ③支払期日を定める義務
- ④遅延利息の支払義務 ←遅延利息の対象に代金を減じた場合を追加
- 委託事業者
親事業者の11の禁止行為- 5条
4条1項のグループ- ①受領拒否の禁止
- ②代金の支払遅延の禁止(手形払等の禁止を含む)
- ③代金の減額の禁止
- ④返品の禁止
- ⑤買いたたきの禁止
- ⑥購入・利用強制の禁止
- ⑦報復措置の禁止
- 5条
4条2項のグループ- ⑧有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
割引困難な手形の交付の禁止※手形払の禁止に伴い廃止(上記②参照)- ⑨不当な経済上の利益の提供要請の禁止
- ⑩不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
- ⑪協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
- 5条
- 委託事業者
- 3⃣ 違反に対する措置
←面的執行の強化(関係行政機関による指導及び助言に係る規定、相互情報提供に係る規定等を新設)
←既に違反行為が行われていない場合等の勧告に係る規定を整備
令和7年改正のポイント
では本題ですが、改正の主なポイントとして、上記表の赤字部分からピックアップした内容を見てみます(違反に対する措置の部分を除きます)。
適用要件に関するもの
資本金区分:「従業員基準」を追加
一般法務としては、ここの改正が一番影響が大きいと思いますが、取引の主体に関する要件につき、資本金区分に加えて、従業員基準(=従業員数の基準)が追加されることとなりました。
下請法の適用があるかどうかは、
下請法の適用範囲=資本金区分×取引の内容
のように、資本金の大小および取引の内容によって決まりますが、この前者の部分に、従業員基準が加わります。
視覚的に見やすいように、従来の「資本金区分」と「取引の内容」に、改正後の「従業員基準」を組み込んでまとめてみると、以下のとおりです(赤字の部分が従業員基準の追加)。
中小受託法の適用範囲(資本金区分/従業員基準×取引の内容)
号 | 資本金区分/従業員基準 | 取引の内容 | |||||||
委託事業者 | 中小受託事業者 | ①製造委託 | ②修理委託 | ③情報成果物作成委託 | ④役務提供委託 | ⑤特定運送委託 | |||
プログラムの作成 | 左記以外 | 運送・物品の倉庫保管・情報処理 | 左記以外 | ||||||
1号 | 3億円超 | 3億円以下 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
2号 | 1000万円超〜3億円以下 | 1000万円以下 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
5号 | 300人超 | 300人以下 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
3号 | 5000万円超 | 5000万円以下 | 〇 | 〇 | |||||
4号 | 1000万円超~5000万円以下 | 1000万円以下 | 〇 | 〇 | |||||
6号 | 100人超 | 100人以下 | 〇 | 〇 |
このように従業員基準で”300人基準”と”100人基準”とでもいうべきものができており、たとえば資本金規模が大きいためこれまで下請事業者と扱っていなかった取引先でも、従業員が300人以下(情報成果物作成委託や役務提供委託をする場合は100人以下のケースも)のときは、新たに適用対象となってくる場合が出てきます。
また逆に、自社の資本金が小さく下請法の適用を気にしなくてよかった事業者も、従業員が300人を超えるときは(情報成果物作成委託や役務提供委託をする場合は100人超のケースも)、新たに委託事業者として適用対象となってくる場合が出てくることになります。
改正後の条文も、一応確認してみます。資本金区分と同じように、「委託事業者」と「中小受託事業者」で、号と号が対になるようになっています。
▽中小受託法2条8項・9項(それぞれの5号と6号を抜粋)
8 この法律で「委託事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一~四 (略)
五 常時使用する従業員の数が三百人を超える法人たる事業者(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、常時使用する従業員の数が三百人以下の個人又は法人たる事業者に対し製造委託等をするもの(第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ次項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合を除く。)
六 常時使用する従業員の数が百人を超える法人たる事業者(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、常時使用する従業員の数が百人以下の個人又は法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの(第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ次項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)
9 この法律で「中小受託事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一~四 (略)
五 常時使用する従業員の数が三百人以下の個人又は法人たる事業者であつて、前項第五号に規定する委託事業者から製造委託等を受けるもの
六 常時使用する従業員の数が百人以下の個人又は法人たる事業者であつて、前項第六号に規定する委託事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
★どちらの5号も、「製造委託等」に含まれる情報成果物作成委託又は役務提供委託は、政令で定める情報成果物又は役務に係るものに限られています(8項1号括弧書き参照)
★どちらの6号も、「情報成果物作成委託又は役務提供委託」からは、政令で定める情報成果物又は役務に係るものは除かれています(8項3号括弧書き参照)
取引の内容:「特定運送委託」を追加
中小受託法では、適用対象となる取引の内容が
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
- 特定運送委託 ←NEW!
となり、特定運送委託が追加されました。
これは、役務提供委託(上記④)に含まれないため従来は独占禁止法の物流特殊指定で対応してきた部分に関して、中小受託法では、特定運送委託(上記⑤)という新たな類型を設けて適用対象にすることにしたものです。
どういうことかというと、役務提供委託は、親事業者が他者に提供する役務を委託する場合、つまり再委託に限られている(自家利用役務の委託を含まない)ため、発荷主から元請運送事業者への委託は、下請法の対象外とされてきました(独占禁止法の物流特殊指定で対応)。
例えば、顧客渡しの契約で製品を販売しているメーカーが、顧客への製品の運送を運送業者に委託するような場合には、下請法の適用はない(前掲・NO&T参照)といった具合です(その顧客への運送業務は、自家利用役務に該当する)
ただ、このような運送委託取引で、荷主・物流事業者間の問題(立場の弱い物流事業者の無償での荷役・荷待ちなど)が顕在化しているとの現状があったため、中小受託法で新たに適用対象に加えた、ということです。
-
-
下請法|取引の内容-情報成果物作成委託、役務提供委託
続きを見る
条文も確認してみます。
▽中小受託法2条5項
5 この法律で「特定運送委託」とは、事業者が業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することをいう。
そのままだと少し読みにくいので、箇条書きにすると、
- 事業者が
- 業として行う販売、業として請け負う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品
又は
業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の - 当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する
- 運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること
となっています。
つまり、運送委託の全てが対象となるのではなく、顧客に対する取引の目的物の運送に限定され、顧客向け以外の運送は対象外となっています(箇条書きの下線部参照)。
これは、先ほど見たように役務提供委託は再委託に限られているため、それとの平仄をとるために、特定運送委託でも、顧客=着荷主から運送の依頼を受けており、その履行のために運送業者に運送業務を再委託すると構成できる範囲に限定したものとされています(前掲・長澤参照)。
取引の内容:製造委託の対象物品に「木型その他専ら物品の製造に用いる物品」を追加
製造委託の対象物品に含まれる型は、従来は金型のみでしたが、金型以外の型と工具(治具など)についても、中小受託法で適用対象になりました(以下の下線部参照)。
条文を確認してみると、従来「金型」であったところに続けて、木型や工具が追加されているのがわかります。
▽中小受託法2条1項
(定義)
第二条 この法律で「製造委託」とは、事業者が業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料若しくは専らこれらの製造に用いる金型、木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具又は業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料の製造を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品、部品、附属品若しくは原材料又は専らこれらの製造に用いる当該型若しくは工具の製造を他の事業者に委託することをいう。
これもそのままだと読みにくいので、箇条書きにすると、
- 【類型①:販売目的物品等の製造委託 / 類型②:物品等の製造再委託】
事業者が
業として行う販売若しくは業として請け負う製造(加工を含む。以下同じ。)の目的物たる物品
若しくは
その半製品、部品、附属品若しくは原材料
若しくは
専らこれらの製造に用いる金型、木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具又は - 【類型③:修理用部品等の製造委託】
業として行う物品の修理に必要な部品若しくは原材料
の製造を他の事業者に委託すること及び - 【類型④:自家使用物品等の製造委託】
事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合に
その物品
若しくは
その半製品、部品、附属品若しくは原材料
又は
専らこれらの製造に用いる当該型若しくは工具
の製造を他の事業者に委託すること
となっています(※【 】は管理人注)。
適用の効果(義務と禁止行為)に関するもの
義務:取引条件の明示につき電磁的方法による提供を承諾の有無にかかわらず容認
下請法では、発注書面の交付について、電磁的方法による提供を行うには、事前に書面または電磁的方法による承諾を得ることが必要です(下請法3条、下請法運用基準 第3-3)。
これに対して、中小受託法では、承諾は求められないことになりました(書面と並列的な書き方になっている。以下の下線部参照)。
▽中小受託法4条
(中小受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第四条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により中小受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、…(略)…。
2 委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、中小受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、中小受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。
義務:遅延利息の対象に代金を減じた場合を追加
遅延利息の支払義務(=特別の遅延利息(年率14.6%))の対象として、「代金減額の禁止」(法5条1項3号)に抵触する場合のその減額幅が、新たに追加されています。
▽中小受託法6条2項
2 委託事業者は、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに製造委託等代金の額を減じたときは、中小受託事業者に対し、製造委託等代金の額を減じた日又は中小受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日のいずれか遅い日から当該減じた額の支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該減じた額に公正取引委員会規則で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
禁止行為:手形払等の禁止
これは、支払手段として、手形払をそもそも認めないことにしたものです。これに伴って、下請法における禁止行為である「割引困難な手形の交付の禁止」は廃止されます(手形がそもそもダメだから)。
また、手形以外の支払手段である電子記録債権やファクタリングなどについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認められません(「下請法・下請振興法改正法の概要」5頁参照)。
建付けとしては、これらは「支払遅延」の禁止に含める形で禁止されています。
▽中小受託法5条1項2号
二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること並びに金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することを含む。)。
運用基準(案)による影響
ただ、この点については、令和7年改正に伴い改正される運用基準(案)で、さらに一歩進んで(?)、決済日が支払期日より後に到来するものについては、委託事業者が支払期日における割引料等を負担したとしてもNGだとされているため(以下の下線部参照)、引き続き注視が必要とされています(前掲・長澤参照)。
▽製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準(案)第4-2-⑸
「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」とは、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段をいう。例えば、①一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が製造委託等代金の支払期日より後に到来する場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の支払期日に金銭を受領するために、当該支払手段を担保に融資を受けて利息を支払ったり、割引を受けたりする必要があるもの、②一括決済方式又は電子記録債権を使用する場合に、中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる受取手数料等を負担する必要があるものがこれに該当する。
これらの支払手段のうち、満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日以前に到来するものを使用することは認められるが、当該支払手段について満期日・決済日等までに支払不能等が生じ、中小受託事業者が当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることができないような場合は「製造委託等代金を支払わない」ことに該当するため、委託事業者は、支払期日までに、当該製造委託等代金を支払う必要がある。他方、満期日・決済日等が製造委託等代金の支払期日より後に到来するものについては、委託事業者が支払期日における割引料等を負担することとする場合であっても、支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するときは、金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえないことから、「当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」として取り扱う。
禁止行為:「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」を追加
これは、コストが上昇している中で、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止するものです(一方的代金額決定の禁止)。
▽中小受託法5条2項4号
四 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。
コスト上昇下における代金据え置きに関しては、令和6年5月27日に下請法運用基準の改正があり、「買いたたきの禁止」の中ですでに解釈・運用上の一定の対応がなされていますが(以下の下線部参照)、中小受託法の上記規定は、「買いたたきの禁止」などの典型におけるような対価に着目したものではなく、交渉プロセスに着目した規定だとされています。
▽下請法運用基準 第4-5-⑴・⑵
⑴ 法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」である。
「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。
ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額
イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額
買いたたきに該当するか否かは、下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況及び当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案して総合的に判断する。
⑵ 次のような方法で下請代金の額を定めることは、買いたたきに該当するおそれがある。
ア~イ (略)
ウ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
エ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
オ~コ (略)
経過措置について
一部改正法の附則2条~4条に、経過措置に関する規定(経過規定)があります。
新法で初めて規制対象になった部分に関して定めがあり、
- 資本金基準の委託事業者が新法施行前に発注した、金型を除く型および工具(=製造委託の対象物品として新設された部分)の製造委託
- 資本金基準の委託事業者が新法施行前に発注した特定運送委託(=対象取引の内容として新設された部分)
- 従業員基準(=取引の主体に関する要件として新設された部分)の委託事業者が新法施行前に発注した製造委託等(=製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託)
には、新法は適用しない、となっています(附則2条1項)。
つまり、新法施行前に発注した上記①の「製造委託」/②の「特定運送委託」/③の「製造委託等」については、新法施行後に義務と禁止行為に関する違反行為(例えば受領拒否)がなされても、新法の規定は適用されないということになります。
▽下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律 附則2条1項・2項(※【 】は管理人注)
(下請代金支払遅延等防止法の一部改正に伴う経過措置)
第二条 第一条の規定による改正後の製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(以下この条において「新支払遅延等防止法」という。)の規定は、この法律の施行前にした行為であって【①】新支払遅延等防止法第二条第八項に規定する委託事業者(同項第一号から第四号までに該当する者に限る。)による同条第一項に規定する製造委託(同項に規定する型(金型を除く。)又は同項に規定する工具の製造に係るものに限る。)及び【②】同条第五項に規定する特定運送委託並びに【③】同条第八項に規定する委託事業者(同項第五号及び第六号に該当する者に限る。)による同条第六項に規定する製造委託等に該当するものについては、適用しない。
2 新支払遅延等防止法第四条、第五条、第六条第二項及び第十条の規定は、この法律の施行後にした新支払遅延等防止法第二条第六項に規定する製造委託等について適用し、この法律の施行前にした第一条の規定による改正前の下請代金支払遅延等防止法(次項において「旧支払遅延等防止法」という。)第二条第五項に規定する製造委託等については、なお従前の例による。
続いて2項では、上記のように、
- 新法(下請法に比べて変更があった部分)の適用:
新法における取引条件の明示義務(新法4条)、禁止行為(新法5条)、代金減額分の遅延利息(新法6条2項)、勧告(新法10条)の規定は、新法施行後に発注した新法における製造委託等(=製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託)に適用される(新法施行前に発注した製造委託等には適用されない)【2項前段】 - 下請法の適用:
新法施行前に発注した下請法における製造委託等(=製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)には、下請法の規定が適用される(「なお従前の例による」)【2項後段】
となっています。
なので、新法施行前に発注した下請法における製造委託等(=製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)については、新法施行後に義務と禁止行為に関する違反行為がなされても、引き続き下請法の規定が適用されるということになります。
ということで、たとえば取引の内容についての部分を取り上げると、適用関係はこのようなイメージです。
施行前に発注 | 施行後に発注 | |
---|---|---|
製造委託 | 下請法(2項後段) | 新法(2項前段参照) |
修理委託 | 下請法(2項後段) | 新法(2項前段参照) |
情報成果物作成委託 | 下請法(2項後段) | 新法(2項前段参照) |
役務提供委託 | 下請法(2項後段) | 新法(2項前段参照) |
特定運送委託 | 新法は適用されない(1項) ※下請法ではそもそも対象外 | 新法(2項前段参照) |
その他の経過規定(3項、附則4条、5条)については、本記事では割愛します。
結び
今回は、下請法から中小受託法(取適法)へということで、令和7年改正の内容をまとめて見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等
主要法令等
参考資料
参考文献
※注:「優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析」には第4版があります
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