今回は、不正競争防止法を勉強しようということで、不正競争行為のうち、混同惹起行為と著名表示冒用行為について書いてみたいと思う。
混同惹起行為と著名表示冒用行為は、マークの保護ということで、商標権と関連があるものとして、セットで見た方がわかりやすいところがあるので、同じ記事内にしています。
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。
※テキストとしては、経産省HPに、スライド形式の「不正競争防止法テキスト」と、ガチ解説の「逐条解説 不正競争防止法」が掲載されています。
▷不正競争防止法(知的財産室)|経産省HP
メモ
本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。
混同惹起行為(2条1項1号)
規制の内容
混同惹起行為は、他人のマークとして需要者の間に広く認識されている(=周知性がある)ものと同一・類似のマークを使用して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為のことである。
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
分節すると、
⑴他人の商品等表示として 【他人性】【商品等表示】
∟①人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、
∟②商品の容器若しくは包装
∟③その他の商品又は営業を表示するもの
⑵需要者の間に広く認識されているものと 【周知性】
⑶同一若しくは類似の 【同一性・類似性】
⑷①商品等表示を使用し、【使用】
又は
②その商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、【拡布】
若しくは
③電気通信回線を通じて提供して、【電気通信提供】
⑸他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 【混同惹起行為】
という感じである。
商品等表示、周知性、混同惹起行為、このあたりがポイントなので、順に見ていきたいと思う。
商品等表示
「商品等表示」については、括弧書きで長々と定義が書かれているが、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章」「商品の容器若しくは包装」というのは例示である。
ちなみに、例示されている「商標」「標章」については、2条2項と3項で、商標法にいう「商標」「標章」と同じ意味であるとされている。
(定義)
第二条
2 この法律において「商標」とは、商標法第二条第一項に規定する商標をいう。
3 この法律において「標章」とは、商標法第二条第一項に規定する標章をいう。
ということで、例示の部分を除いて読めば、「商品等表示」とは、「商品又は営業を表示するもの」であり、商品の出所又は営業の主体を示す表示をいう。
また、難しい話になってしまうが、自他識別力又は出所表示機能を有するものでなければならない、とされる。
▽不正競争防止法テキスト(Ⅰの5の①)
「商品等表示」は、自他識別力又は出所表示機能を有するものでなければならず、表示が、単に用途や内容を表示するに過ぎない場合には商品等表示に含まれない。例えば、書籍や映画の題名は、著作物たる書籍や映画を特定するものであって、商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する表示として認識されるものではない等として「商品等表示」に該当しないとした裁判例がある。
周知性
「需要者の間に広く認識されている」ことが、周知性である。ココが一番のポイントかなと思う。
商標権との対比でいうと、登録されていなくても、周知性があれば表示として保護される可能性がある、という点に特徴があるといえる。
(保護に値するような一定の事実状態が形成されているかどうかに着眼している)
周知性があるかどうかは、
〇商品・役務の性質・種類、
〇取引態様、
〇需要者層、
〇宣伝活動、
〇表示の内容
等の考慮要素を総合的に判断して決めることになる、とされている。
「需要者」とは、商品等の取引の相手方をいい、最終需要者に至るまでの各段階の取引業者も含まれるとされる。
「広く認識」とは、全国的に知られている必要はなく、一地方であっても足りる(←一定のエリアであっても、保護すべき一定の事実状態が形成されていればそのエリアでは保護されるべき)。
混同惹起行為
周知性があって、同一性・類似性があってもまだダメで、その結果、「混同を生じさせる」もの(混同惹起行為)でなければならない。
ポイントは、以下の3つである。
〇混同は、現に発生している必要はなく、混同が生じるおそれがあれば足りる。
〇「広義の混同」も含む。
➢「狭義の混同」…競争関係の存在を前提に直接の営業主体の混同を生じさせる行為
➢「広義の混同」…緊密な営業上の関係や同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係があると誤信させる行為
※要するに、直接の競争関係がある場合が狭義の混同(競業の同業者と混同させる)、ない場合が広義の混同(あの企業グループなのかな?と混同させる)である。
〇混同の判断は、表示の使用方法、態様等の諸般の事情をもとに、一般人を基準として判断すべきである、とされる。
著名表示冒用行為(2条1項2号)
規制の内容
著名表示冒用行為とは、他人の著名なマークと同一・類似のマークを勝手に使用する行為のことである。
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
分節すると、
⑴自己の商品等表示として 【商品等表示】
⑵他人の著名な商品等表示と 【著名性】
⑶同一若しくは類似のものを 【同一性・類似性】
⑷①使用し、【使用】
又は
②その商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、 【拡布】
若しくは
③電気通信回線を通じて提供する行為 【電気通信提供】
という感じである。
混同惹起行為との比較でいうと、ポイントは、「周知」性よりもさらに強力な「著名」性が必要であること、しかし、その代わり、混同を要件としていないこと、である。
規制の趣旨
なぜそういう設計にしたのか?という趣旨が、理解のポイントであると思う。以下のとおり。
▽逐条解説 不正競争防止法(Chapter3の第3節の1)
さらに、現代の情報化社会において、様々なメディアを通じ商品表示や営業表示が広められ、そのブランド・イメージが極めてよく知られるものとなると、それが持つ独自のブランド・イメージが顧客吸引力を有し、個別の商品や営業を超えた独自の財産的価値を持つに至る場合がある。このような著名表示を冒用する行為が行われると、たとえ混同が生じない場合であっても、冒用者は自らが本来行うべき営業上の努力を払うことなく著名表示の有している顧客吸引力に「ただのり(フリーライド)」することができる一方で、永年の営業上の努力により高い信用・名声・評判を有するに至った著名表示とそれを本来使用してきた者との結びつきが薄められる(希釈化、ダイリューション)ことになる。
(略)
このような著名表示の冒用事例においては、高い信用・名声・評判を有する著名表示の財産的価値が侵害されていることそれ自体が問題であって、「混同」が生じているか否かは必ずしも重要ではないと考えられることから、平成 5 年改正時に、他人の著名な商品等表示の冒用行為について、混同を要件とすることなく不正競争と位置付ける本号の規定が新設された。
わかりやすい例でいうと、ラブホテルシャネル事件(神戸地判昭和62年3月25日(判タ 653号166頁))というのがある。「ホテルシャネル」という名称でラブホテルを経営した業者に対して、混同惹起行為として損害賠償が請求されたという事案である。
(当時は、著名表示冒用行為の規定はなかった)
この裁判例では、混同を認定することで具体的事案の解決を図ったが、実際問題として、「それ、混同するか?」という疑問は否めないところであると思う。
混同が生じていないとしても、著名表示の財産的価値が侵害されていることが問題、ということである。
著名性
「著名な」(著名性)とは、混同を要件とすることなく不正競争行為とするものであるので、単に広く認識されている以上のものが必要とされる。
「著名な」との文言からは直接窺い知れないが、本号の趣旨からして、著名表示を冒用する行為が、
〇著名表示の顧客吸引力に「ただのり(フリーライド)」することで
↓
〇著名表示とそれを本来使用してきた者との結びつきが薄められたり(希釈化、ダイリューション)
〇著名表示のブランド・イメージが汚染(ポリューション、ターニッシュメント)される
と評価される場合に、はじめて本号の対象となる、とされている。
どの程度知られていれば「著名」といえるかについては、通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが必要であり、具体的には全国的に知られているようなものを想定している、とされる。
どういうこと??というと、混同惹起行為との比較でいうと、混同が生じない範囲でも保護が及ぶわけだし、商標権との比較でいっても、区分の限定もない範囲(※)で保護が及ぶことになる。
(※)商標権は、出願時に、法的保護の及ぶ範囲、つまり商標登録しようとする商品や役務のカテゴリを決める。これを「区分」という。
つまり、法的保護が及ぶ範囲が非常に広範囲なので、それに見合うだけの要件が要求されている、という感じである。(←管理人の理解)
見方を変えて、他の事業者からしてみれば、不正競争行為とならないように(地雷を踏まないように)しないといけないわけだが、そういった極めて広い範囲でも、”これは使ったらダメだよね”というのがわかるようなものでなければいけない、ということである。
(さほど有名でないものまで簡単に著名表示が認められてしまったら、世の中地雷だらけになる)
通常の経済活動において、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが必要、というのはそういう意味である。
商標権との違い
商標権による保護と対比して眺めてみると、幾分かイメージが掴みやすくなるので、若干補足して書いてみたいと思う。
本記事で見たように、不正競争防止法では、登録は要求されていない。
登録が要らない代わりに、「周知」とか「著名」といったレベルまで、営業上の信用が表示に化体していなければいけないことになっている。これは、保護に値するような一定の事実状態が形成されているかどうかに着眼しているからといえる。
また、混同惹起行為の保護は、マークが「周知」である地域に限定される。
これも、保護に値するような一定の事実状態が形成されているかどうかに着眼しているので、保護の地域も、営業上の信用が化体されている範囲に限られているのだといえる。
※著名表示冒用行為は、「著名」まで至っていたらそれはもう全国的に営業上の信用が化体しているといってよいと考えているのだと思う。(←管理人の理解)
これに対して、商標法は、商標に営業上の信用が化体しているかどうかを問わず、登録をすることによって商標権を発生させ、全国的な保護をあらかじめ与えるもの、といえる。
商標法は、商標権の発生について使用主義ではなく登録主義をとっているので(不使用取消審判など一定の補正はあるが)、実際に使用されて営業上の信用が化体しているかといった点には特に触れないのである。
表にしてみると、こんな感じかなと。(※あくまでも大まかなイメージを掴むためのもの)
要件 |
効果 |
||
登録 |
営業上の信用が化体されていること |
||
商標権 |
登録が必要 |
必要ない |
保護地域は全国的 |
混同惹起行為・著名表示冒用行為 |
必要ない |
営業上の信用が化体されている必要あり |
保護地域は営業上の信用が化体されている地域 |
こういった違いは、ブランド戦略としてマークの保護を検討する側からみれば、
〇区分を検討のうえ、費用と時間をかけて登録して、システマチックに法的保護を発生させていくのが商標権で、
〇そういったコストをかけていない範囲で何か有事が起こったとしても、一般的に法的保護が検討できる根拠として不正競争防止法(混同惹起行為と著名表示冒用行為)がある、
というイメージかなと思う。(←管理人のイメージ)
また、逆側から、つまり、他者の権利侵害をしないように・不正競争行為とならないように(=地雷を踏まないように)という観点からみたときは、
〇他者のマークも、そういう同じ構造のバリアに守られている可能性がある
ということに留意しないといけない、ということでもある。
▽参考記事|商標権について
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商標法を勉強しよう|商標権とはー商標権の構成
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結び
不正競争行為のうち、混同惹起行為と著名表示冒用行為については以上になります。
大学の名称についてこの2つが問題になった比較的最近のニュースの事案を題材に、別の記事も書いています。あてはめの練習にどうぞ。
▽参考記事|京都芸術大学名称使用差止請求事件
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名称の権利化とブランディング戦略(後編)|大学の名称変更と不正競争防止法
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。初心者(=過去の自分)がなるだけ早く新しい環境に適応できるようにとの気持ちで書いております(ゆえに、ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれておりませんので、あしからずご了承ください)。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご留意ください。