今回は、電気通信事業法ということで、電気通信事業法の「適用除外」となる電気通信事業について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
適用除外の3つの類型
電気通信市場に参入するためには登録や届出のルールがありますが、「電気通信事業には該当するけれど、法律の適用が除外されていて国への手続が一切不要なケース」というのがあります。それがこの適用除外です。
法律(法164条1項)では、社会的・経済的な影響が小さいなどの理由から、あえて自由なビジネスに委ねる3つの事業類型を適用除外として定めています(1号~3号)。
▽電通法164条1項
(適用除外等)
第百六十四条 この法律の規定は、次に掲げる電気通信事業については、適用しない。
一~三 (略)
専ら一の者に提供する事業:第一号事業
一つ目は、「専ら一の者に電気通信役務を提供する電気通信事業」です。
▽1号
一 専ら一の者に電気通信役務(当該一の者が電気通信事業者であるときは、当該一の者の電気通信事業の用に供する電気通信役務を除く。)を提供する電気通信事業
これは、特定の1つの個人や会社だけを相手に通信サービスを提供するケースです。例えば、親会社のためだけに子会社が通信部門を独立させてサービスを提供するような場合が考えられます。
当事者間の特殊な関係に基づいて行われる、いわば「自家用通信の延長」と言えるものなので、法律の適用を除外して当事者の自由に委ねています。
小規模設備等による事業:第二号事業
二つ目は、「小規模設備等による電気通信事業」です。
▽2号
二 その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む。)又は同一の建物内である電気通信設備その他総務省令で定める基準に満たない規模の電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業
通信設備が「一つの建物内」や「同一構内(地続きの敷地内など)」だけで完結しているケースや、総務省令で定められた「線路の総延長が5キロメートルに満たない」極めて小規模な設備でサービスを提供するケースが該当します。
例えば、ホテル内の客室とフロントを結ぶ内線電話や、特定の工業団地内だけで結ばれた通信網などです。これらは利用者の範囲が物理的に限定されており、一般のものに比べて社会的な影響が小さいため、適用が除外されています。
他人の通信を媒介しない回線非設置事業:第三号事業
三つ目は、条文番号に由来して業界でもよく使われる「第三号事業」と呼ばれる類型です。
法律上は「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業」と定義されています。
▽3号
三 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(次に掲げる電気通信役務(ロ及びハに掲げる電気通信役務にあつては、当該電気通信役務を提供する者として総務大臣が総務省令で定めるところにより指定する者により提供されるものに限る。)を除く。)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業
イ ドメイン名電気通信役務
ロ 検索情報電気通信役務
ハ 媒介相当電気通信役務
呪文のように長いですが、要するに、自前で通信回線を設置しておらず、かつ、AさんとBさんのような「他人の通信」を媒介しないサービスのことです。
具体的には、自社のサーバーからユーザーへ一方的に動画や音楽、ニュース記事を送信する「コンテンツ配信サイト」や、ユーザーからのデータ入力に対して計算結果だけを返すようなオンラインサービスなどが該当します。
これらは基本的に「事業者と利用者の1対1の関係」で完結しており、他人の通信の橋渡し(媒介)をしていないため、手続は不要とされています。
適用除外でも「絶対のルール」はある
しかし、「適用除外だから、法律を気にせず何をやってもいいんだ!」…というわけではありません。
ここも重要なポイントなのですが、法164条3項において、これら適用除外の事業であっても、憲法上の要請でもある「検閲の禁止(法3条)」と「通信の秘密の保護(法4条)」というルールだけは適用される仕組み(セーフティネット)になっています。
電気通信事業法の適用除外となる事業であっても、利用者の権利保護や通信の秩序維持といった観点から例外的に守らなければならない規律があり、法164条3項から5項にかけて規定されています。
以下、各項の内容とその趣旨を詳しく解説します。
適用除外事業全般および第三号事業に適用される規律(法164条3項)
前述のように、法164条1項により、特定の事業(専ら一の者への提供、同一構内等の小規模設備による提供、他人の通信を媒介しない回線非設置事業=第3号事業)は、原則として電気通信事業法の適用から除外され、登録や届出の手続が不要とされています。
しかし、3項では、これらの適用除外事業に対しても、以下の重要な規律は適用することとしています。
▽法164条3項
3 第一項の規定にかかわらず、第三条及び第四条の規定は同項各号に掲げる電気通信事業を営む者の取扱中に係る通信について、第二十七条の十二、第二十九条第二項(第四号に係る部分に限る。)、第百五十七条の二、第百六十六条第一項、第百六十七条の二、第百八十六条(第三号中第二十九条第二項に係る部分に限る。)及び第百八十八条(第十八号中第百六十六条第一項に係る部分に限る。)の規定は第三号事業を営む者について、それぞれ適用する。
① すべての適用除外事業に適用される絶対的ルール(プライバシー保護)
適用除外の事業であっても「他人の通信を取り扱う事業」であることには変わりありません。そのため、憲法上の要請でもある以下の2つの条文は、適用除外事業を営む者の取扱中に係る通信についても例外なく適用されます。
- 検閲の禁止(法3条):電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない
- 通信の秘密の保護(法4条):電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は侵してはならず、事業に従事する者は、在職中も退職後も通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない(守秘義務)
② 第三号事業にのみ追加で適用される規律
第三号事業を営む者に対しては、近年のネット社会の実情に合わせ、上記に加えてさらに以下の規律が適用されます。
- 外部送信に関する規律(法27条の12):利用者の利益に及ぼす影響が少なくないサービスを提供する第3号事業者は、利用者の端末から外部へ利用者に関する情報(Cookieなど)を送信させる場合、あらかじめ利用者に対して送信される情報の内容や送信先などを通知するか、容易に知り得る状態に置かなければなりません
- 業務改善命令(法29条2項4号):第3号事業を営む者が上記の外部送信に関する規律(法27条の12)に違反したときは、総務大臣は業務の方法の改善その他の措置をとるべきことを命ずることができます
- あっせん及び仲裁の手続(法157条の2):第3号事業を営む者が事業を行うに当たって利用すべき電気通信役務の提供に関する契約について、電気通信事業者との間で協議が調わない場合、電気通信紛争処理委員会によるあっせんや仲裁の手続を利用することができます(→※後述)
- 報告及び立入検査(法166条1項):総務大臣は、法の施行に必要な限度で、第3号事業を営む者に対しても報告を求めたり、立入検査を行わせたりすることができます
- 法令等違反行為を行った者の公表(法167条の2):法令に違反する行為を行った場合、総務大臣はその氏名や名称等を公表することができます
- 罰則の適用(法186条3号等):業務改善命令違反や報告・立入検査の拒否等に対しては、罰則が適用されます
認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会に関する特例(法164条4項・5項)
ちなみに4項と5項は、認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会(ICT-ISACなど)が行う特定の業務に対する特例規定です。
この協会は、電気通信設備の機能に障害を与えるサイバー攻撃(送信型対電気通信設備サイバー攻撃)の送信元を特定し、関係する電気通信事業者に対処を求める通知や、通信履歴の調査等を行う団体です。
これらの業務自体は電気通信事業に該当しない場合がありますが、その取扱う情報には「通信の秘密」が含まれるため、厳格な保護が必要とされます。
- 協会が行う通知に関する特例(4項):
協会がサイバー攻撃の送信元を特定して行う「対処を求める通知」は、たとえ業務自体が電気通信事業に該当しなくても、「電気通信事業者の取扱中に係る通信」とみなされます
また、その業務に従事する者は「電気通信事業に従事する者」とみなされます
これにより、法3条(検閲の禁止)と法4条(通信の秘密の保護と従事者の守秘義務)が適用され、通知内容に含まれる通信の秘密が保護されます - 協会が取り扱う通信履歴に関する特例(5項):
協会が会員である電気通信事業者から調査や研究のために提供を受ける「通信履歴の電磁的記録」についても、同様に「電気通信事業者の取扱中に係る通信」とみなされます
これを取り扱う従事者も「電気通信事業に従事する者」とみなされ、法3条及び法4条の規定が適用されることで、通信履歴という秘匿性の高い情報が法的に保護される仕組みになっています
まとめ:適用除外事業でも適用されるルールのイメージ
法164条3項〜5項の構造は、経済的・社会的な影響が小さいため参入手続等の事業法上の厳しい規制は免除しつつも、利用者の「通信の秘密」や「プライバシー」という憲法にも関わる根本的な権利の保護だけは、どのような形態であっても絶対に守らせるという法のセーフティネットとして機能しています。
また、第三号事業に対して外部送信規律などの現代的なルールを追加適用している点も、現在のインターネット社会の環境変化を反映したものといえます。
第三号事業者を守る「あっせん」と「仲裁」の仕組み
また、第三号事業を営む者については、他の電気通信事業者との間でトラブルになった際に、電気通信紛争処理委員会のあっせんや仲裁の手続を利用できる権利も認められています(法157条の2)。
"適用除外事業であっても通信の秘密の保護などの絶対ルールは守る必要がある"というのといわば逆で、”第3号事業者だからこそ利用できる、国(総務省)が用意したトラブル解決の権利がある"ということです。
▽法157条の2第1項・第3項
第百五十七条の二 電気通信事業者と第三号事業を営む者との間において、当該第三号事業を営む者が申し入れた当該第三号事業を営むに当たって利用すべき電気通信役務の提供に関する契約(第三項において単に「契約」という。)の締結に関し、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は条件その他その細目について当事者間の協議が調わないときは、当事者は、委員会に対し、あっせんを申請することができる。ただし、当事者が同項の規定による仲裁の申請をした後は、この限りでない。
3 電気通信事業者と第三号事業を営む者との間において、当該第三号事業を営む者が申し入れた契約の締結に関し、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は条件その他その細目について当事者間の協議が調わないときは、当事者の双方は、委員会に対し、仲裁を申請することができる。
動画配信やオンラインゲームなどのコンテンツ配信事業者(第3号事業者)が、大手通信キャリアなどのインフラ事業者とビジネスをする際、どうしても交渉力に差が出てしまうことがあります。そんな時に役立つのが、電気通信紛争処理委員会によるあっせんと仲裁の手続です。
どんなトラブルが対象になるのか:対象となる紛争
この制度を利用できるのは、第3号事業を営む者と電気通信事業者との間の、「第3号事業を営むに当たって利用すべき電気通信役務の提供に関する契約」の締結をめぐって、料金や条件などの協議がまとまらない(調わない)トラブルに限られます。
- 具体的なトラブルの例:
第三号事業者(例:オンラインゲーム会社)がサービスを提供する上で、通信キャリアが持っている「ポータル機能」「GPS位置情報機能」「課金機能」「料金回収代行機能」などを利用させてもらいたいと申し込みをしたとします
しかし、通信キャリア側が法外な利用料を提示してきたり、不利な条件を押し付けてきたりして、当事者同士の話し合いでは全く解決のメドが立たないようなケースがこれに当たります
なお、第三号事業のビジネスとは全く無関係な通信サービスの契約に関するトラブルについては、この特別ルールの対象にはなりません。
「電気通信紛争処理委員会」とは
このトラブルを解決してくれる電気通信紛争処理委員会とは、総務省に設置されている専門的な第三者機関です。
電気通信分野の紛争は高度で複雑なため、技術や法律、会計などの専門知識を持つ委員(両議院の同意を得て任命された有識者など)によって構成されており、中立的・専門的な立場で迅速に紛争を処理してくれます。
電気通信紛争処理委員会|総務省HP
「あっせん」と「仲裁」の具体的な違い
紛争処理委員会が提供する2つの解決アプローチは、その「強制力」や「開始の条件」が大きく異なります。
① 歩み寄りを促す「あっせん」
当事者間の話し合いがまとまらない場合に、委員(あっせん委員)が間に入って双方の主張を確かめ、新たな合意点や解決案を提示して歩み寄りを促す手続です。
特徴としては、当事者の「一方から」の申請だけで開始することができます。ただし、あくまで話し合いによる自主的な解決(和解)を目指すものであり、法的な強制力はありません。
② 白黒をはっきりつける「仲裁」
当事者間の話し合いが決裂した場合に、3人の委員(仲裁委員)による合議体(仲裁廷)が第三者として最終的な判断(仲裁判断)を下し、トラブルを強制的に解決する手続です。
特徴としては、仲裁によって下された判断は、「裁判所の確定判決と同一の効力」を持ちます。つまり、当事者はその判断に不満があっても絶対に従わなければならないという法的拘束力(強制力)があります。
そのため、あっせんと違い、仲裁を開始するには「当事者双方の合意(お互いに第三者の判断に服するという約束)」に基づく申請が必要になります。
なお、当事者が「仲裁」の申請をした後は、強力な効力を持つ仲裁判断によって紛争が解決されることが予定されるため、「あっせん」を申請することはできなくなります
なぜ第三号事業者にこの権利が認められているのか
第三号事業(コンテンツ配信など)は、回線などのインフラを持たないため参入手続上は「適用除外」とされていますが、現代のネット社会において私たちの生活を豊かにし、利便性を向上させるために極めて重要な役割を果たしています。
しかし、ビジネスの基盤となるインフラやシステムを借りる際、大手電気通信事業者との間には交渉力の格差が生じがちです。そこで、第三号事業者が不利な立場に立たされてビジネスが立ち行かなくなるのを防ぎ、公正な競争環境を確保するために、法律で特別に「あっせん」や「仲裁」の手続を利用できる権利を与えています。
結び
今回は、電気通信事業法ということで、適用除外について見てみました。
影響の小さいビジネスの自由度は最大限に認めつつも、利用者の「通信の秘密」という根本的な権利だけはどんな事業者にも絶対に守らせるという、電気通信事業法の合理的なバランス感覚が見て取れる部分といえます。
電気通信事業法の関連記事一覧はこちら
-
-
電気通信事業法 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
電気通信事業法に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
関連団体
- 電気通信サービス向上推進協議会
- 一般社団法人ICT-ISAC(認定送信型対電気通信設備サイバー攻撃対処協会)
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています
参考文献image