今回は、組織再編ということで、吸収合併手続のうち株主保護手続について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
株主保護手続とは
吸収合併における株主保護手続とは、要するに、反対株主の株式買取請求権のことです。
つまり、合併に反対する株主が自己の保有株式の買取りを会社に請求できる制度です。
吸収合併は、会社の基礎に重大な変更を与えることになるため(特に吸収される側の消滅会社は文字通り消滅し、消滅会社株主は通常、存続会社株主として収容されることになる)、これに反対する株主に、投下資本を回収してイグジットする機会を与えるという趣旨になります。
消滅会社(吸収される側)・存続会社(吸収する側)のどちらの株主も、吸収合併に反対する株主には、株式の買取請求権があります。
以下、消滅会社側→存続会社側の順に見てみます。
消滅会社側の株主保護手続(法785条)
吸収合併に反対する消滅会社株主は、消滅会社に対して、自らの保有株式を買い取るよう請求することができます(1項)。
▽会社法785条1項(※【 】は管理人注)
(反対株主の株式買取請求)
第七百八十五条 吸収合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
一 第七百八十三条第二項に規定する場合【=合併対価が持分等であり総株主の同意を要する場合】
二 第七百八十四条第二項に規定する場合【=吸収分割における簡易分割の場合】
ちなみに、総株主の同意を要する場合(上記の1号)は、買取請求権は認められないことになっています。反対株主が存在しないからです
株主に対する通知または公告
反対株主には買取請求権があるので、消滅会社は、合併の効力発生日の20日前までに、
- 吸収合併をする旨
- 相手会社(=存続会社)の商号および住所
を株主に通知しなければならないとされています(3項)。
この通知は、(a)消滅会社が公開会社である場合と、(b)消滅会社が株主総会決議によって吸収合併契約の承認を受けた場合には、公告をもって代えることができます(4項)。
▽会社法785条3項・4項(※【 】は管理人注)
3 消滅株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その株主(第七百八十三条第四項に規定する場合【=合併対価が持分等であり種類株主全員の同意を要する場合】における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主及び第七百八十四条第一項本文に規定する場合【=略式合併の場合】における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収合併等をする旨並びに存続会社等の商号及び住所を通知しなければならない。ただし、第一項各号に掲げる場合は、この限りでない。
4 次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
一 消滅株式会社等が公開会社である場合
二 消滅株式会社等が第七百八十三条第一項の株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合
買取請求
行使手続
「反対株主」というと、合併契約承認の株主総会で反対した株主が思い浮かぶように思いますが、行使手続としては、株主総会に先立つ反対通知も必要とされています。
つまり、買取請求をしようとする反対株主は、
- 株主総会前の反対通知
かつ - 株主総会における反対の議決権行使
をする必要があります(※なお、種類株主の場合については本記事では割愛)。
なお、反対通知の方法は法定されておらず、書面または電磁的方法による(吸収合併に反対する旨の)議決権行使をする場合の書面提出や電子投票も含まれるとされています
議決権制限株式の場合は?
そうすると、議決権制限株式(経済的便益だけを享受することが想定された株式)の株主は、総会で反対しようにも議決権がないけど、どうなるんだ?という気がしますが、この場合は、当然に「反対株主」となります(2項1号ロ参照)。
つまり、反対通知・反対の議決権行使をする必要なく、買取請求権を行使することができます(もちろん、実際には反対でないのなら、行使しなければよいだけ)。投下資本回収の機会を与えるという趣旨は議決権制限株式の場合にも妥当するからです。
議決権制限株式だけでなく、相互保有株式や単元未満株式などの場合も同様です。
略式合併の場合は?
また、略式合併の場合は株主総会を省略できるので、反対しようにも総会がないけどどうなるんだ?という気がしますが、この場合も当然に「反対株主」となります(2項2号参照)。
ただ、ある意味当然ですが、消滅会社の特別支配会社、つまり存続会社には買取請求権は認められていません(2号括弧書き参照)。
これは、略式合併は、特別支配関係があって消滅会社の株主総会で当然に承認されることが予想されることから、その総会決議を不要としたものなので、特別支配会社が反対することは想定されていないためです。
イメージとしては、消滅会社の株式のうち91%を存続会社が保有する略式合併の場合、残り9%の株主は消滅会社に買取請求できるけれども、存続会社は買取請求できない、ということです
条文でも確認してみます。以上の話が順に出てきます。
▽会社法785条2項(※【 】は管理人注)
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主(第七百八十三条第四項に規定する場合【=合併対価が持分等であり種類株主全員の同意を要する場合】における同項に規定する持分等の割当てを受ける株主を除く。)をいう。
一 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二 前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(第七百八十四条第一項本文に規定する場合【=略式合併の場合】における当該特別支配会社を除く。)
行使期間
買取請求権の行使期間は、「合併の効力発生日の20日前」から「効力発生日の前日」までとされています(5項)。
また、買取請求の際は、買取請求に係る株式の数を明らかにする必要があります。
▽会社法785条5項
5 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
価格決定
買取価格の決定は、まず、消滅会社と反対株主との間の協議によってなされます。
しかし、所定期間内に協議が整わなかった場合には、会社または株主は、裁判所に価格決定の申立てをすることができます。この場合、価格は裁判所が決めることになります。
所定期間は、合併の効力発生日から30日以内であり、この期間内に協議が整わなければ、その後30日以内に、価格決定の申立てをすることができます(つまり合併の効力発生日から60日以内)。
▽会社法786条1項・2項
(株式の価格の決定等)
第七百八十六条 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(吸収合併をする場合における効力発生日後にあっては、吸収合併存続会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
この価格決定の申立てで決定される買取価格には、支払期限(合併の効力発生日から60日)後の法定利息もつきますが(4項)、利息の負担軽減のため、消滅会社側としては、自らが公正な価格と考える額を価格決定の前に支払っておくことができます(仮払制度。5項)。
▽同条4項・5項
4 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。
5 消滅株式会社等は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該消滅株式会社等が公正な価格と認める額を支払うことができる。
買取の効力発生日
買取請求に係る株式の買取りは、合併の効力発生日にその効力を生じることとされています(6項)。
▽会社法786条6項
6 株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。
存続会社側の株主保護手続(法797条)
存続会社側の株主保護手続も、簡易合併がある点以外は、基本的に消滅会社側のそれと同様ですが、以下、条文を中心にざっと確認してみます。
吸収合併に反対する存続会社株主は、存続会社に対して、自らの保有株式を買い取るよう請求することができます(1項本文)。
ただし、簡易合併の場合は、財産的規模の観点から、合併による影響が軽微として株主総会決議を省略できるとしたものなので、会社の基礎に重大な変更を与えるとはいえないため、買取請求権は認められていません(ただし書)。
▽会社法797条1項
(反対株主の株式買取請求)
第七百九十七条 吸収合併等をする場合には、反対株主は、存続株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。ただし、第七百九十六条第二項本文に規定する場合【=簡易合併の場合】(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び第七百九十六条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)は、この限りでない。
株主に対する通知・公告
反対株主には買取請求権があるので、存続会社は、合併の効力発生日の20日前までに、
- 吸収合併をする旨
- 相手会社(=消滅会社)の商号および住所
を株主に通知しなければならないとされています(3項)。
この通知は、(a)存続会社が公開会社である場合と、(b)存続会社が株主総会決議によって吸収合併契約の承認を受けた場合には、公告をもって代えることができます(4項)。
▽会社法797条3項・4項
3 存続株式会社等は、効力発生日の二十日前までに、その株主(第七百九十六条第一項本文に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)に対し、吸収合併等をする旨並びに消滅会社等の商号及び住所(第七百九十五条第三項に規定する場合にあっては、吸収合併等をする旨、消滅会社等の商号及び住所並びに同項の株式に関する事項)を通知しなければならない。
4 次に掲げる場合には、前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
一 存続株式会社等が公開会社である場合
二 存続株式会社等が第七百九十五条第一項の株主総会の決議によって吸収合併契約等の承認を受けた場合
買取請求
行使手続
買取請求をしようとする反対株主は、行使手続として、
- 株主総会前の反対通知
かつ - 株主総会における反対の議決権行使
をする必要があります(※なお、種類株主の場合については本記事では割愛)。
議決権制限株式など(「議決権を行使することができない」)の場合や、略式合併の場合(消滅会社が存続会社の特別支配会社である場合)には、上記①②は必要ありません。先ほど消滅会社側のところで見たのと同様です。
▽会社法797条2項
2 前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。
一 吸収合併等をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主
イ 当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該存続株式会社等に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
二 前号に規定する場合以外の場合 全ての株主(第七百九十六条第一項本文に規定する場合における当該特別支配会社を除く。)
行使期間
買取請求権の行使期間は、「合併の効力発生日の20日前」から「効力発生日の前日」までとされています(5項)。これも先ほど消滅会社側のところで見たのと同様です。
▽会社法797条5項
5 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
価格決定
価格決定についての、存続会社と反対株主との間の協議(1項)、協議が整わないときの裁判所への価格決定の申立て(2項)も、以下のとおり同様です。
▽会社法798条1項・2項
(株式の価格の決定等)
第七百九十八条 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と存続株式会社等との間に協議が調ったときは、存続株式会社等は、効力発生日から六十日以内にその支払をしなければならない。
2 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は存続株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
裁判所の価格決定による場合の法定利息(4項)と仮払制度(5項)についても、以下のとおり同様です。
▽同条4項・5項
4 存続株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。
5 存続株式会社等は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該存続株式会社等が公正な価格と認める額を支払うことができる。
買取の効力発生日
買取請求に係る株式の買取りの効力発生日も、以下のとおり同様です(合併の効力発生日)。
▽会社法798条6項
6 株式買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日に、その効力を生ずる。
結び
今回は、組織再編ということで、吸収合併手続のうち株主保護手続(反対株主の買取請求権)について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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