フリーランス法

フリーランス法を勉強しよう|取引適正化に関する義務-取引条件の明示義務

今回は、フリーランス法を勉強しようということで、取引適正化に関する義務のうち取引条件の明示義務について見てみたいと思います。

フリーランス法における発注事業者の義務には、以下のような種類があります。

取引適正化に関する義務
取引条件の明示義務 ←本記事
②支払期日を定める義務/期日内の支払義務
③7つの禁止行為
【就業環境整備に関する義務】
④募集情報の的確表示
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮
⑥ハラスメント対策に係る体制整備
⑦中途解除等の事前予告・理由開示

その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

取引条件の明示義務(法3条)

口頭による発注は、発注時の取引条件等が不明確でトラブルの元になりがちです。

そこで、当事者の認識の相違を減らしてトラブルを未然に防止するため、発注事業者は、フリーランスへの発注時に書面等により取引条件を明示しなければならないとされています。

法3条に定められているので、「3条通知」とも呼ばれます(解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)第2部-第1-1参照)。

▽法3条1項

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第三条
 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容報酬の額支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、…(略)…。

本記事では、発注事業者=「業務委託事業者」、フリーランス=「特定受託事業者」、発注日=「業務委託をした日」、の意味で使っています

明示事項

明示事項の内容(公取施行規則1条1項)

では、3条通知の明示事項について見てみます。

公正取引委員会規則で定めるところによる「特定受託事業者の給付の内容報酬の額支払期日その他の事項」は、以下のようになっています。

ここでいう公正取引委員会規則は、公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)になります

【3条通知の明示事項】

  • 当事者
    1. 発注事業者及びフリーランスの名称(番号、記号等による記載も可)
  • 発注日・フリーランスの給付に関する事項
    1. 業務委託をした日(=業務委託をすることを合意した日)
    2. フリーランスの給付の内容
    3. フリーランスの給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
    4. フリーランスの給付を受領する場所(役務提供委託の場合は、役務が提供される場所)
  • 検収に関する事項
    1. フリーランスの給付の内容(役務提供委託の場合は、提供される役務の内容)について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  • 報酬に関する事項
    1. 報酬の額
    2. 報酬の支払期日
    3. 報酬の全部又は一部の支払につき、手形を交付する場合は、その手形の金額及び手形の満期
    4. 報酬の全部又は一部の支払につき、一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払を受けることができることとする額、発注事業者が報酬債権相当額又は報酬債務相当額を金融機関へ支払う期日
    5. 報酬の全部又は一部の支払につき、電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の支払期日
    6. 報酬の全部又は一部の支払につき、資金移動業者の資金移動業に係る口座への資金移動で支払う場合は、資金移動業者の名称及び資金移動に係る額

規則の条文そのものも、一応確認してみます。

▽公取施行規則1条1項(※【 】は管理人注)

(法第三条第一項の明示)
第一条
 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。
1号:当事者
 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
2号~5号:発注日・フリーランスの給付に関する事項
 業務委託(法第二条第三項に規定する業務委託をいう。以下同じ。)をした日
 特定受託事業者の給付(法第二条第三項第二号の業務委託の場合は、提供される役務。第六号において同じ。)の内容
 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)
 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
6号:検収に関する事項
 特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
7号~11号:報酬に関する事項
 報酬の額及び支払期日
 報酬の全部又は一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者、特定受託事業者及び金融機関の間の約定に基づき、特定受託事業者が債権譲渡担保方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を担保として、金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付けを受ける方式)又はファクタリング方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を金融機関に譲渡することにより、当該金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)若しくは併存的債務引受方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債務を業務委託事業者と共に負った金融機関から、当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとする場合は、次に掲げる事項
 イ 当該金融機関の名称
 ロ 当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
 ハ 当該報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日
 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者及び特定受託事業者が電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下同じ。)の発生記録(電子記録債権法第十五条に規定する発生記録をいう。)をし又は譲渡記録(電子記録債権法第十七条に規定する譲渡記録をいう。)をする場合は、次に掲げる事項
 イ 当該電子記録債権の額
 ロ 電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日
十一 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者が、資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三十六条の二第一項に規定する第一種資金移動業を営む同法第二条第三項に規定する資金移動業者(以下単に「資金移動業者」という。)の第一種資金移動業に係る口座、同法第三十六条の二第二項に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者の第二種資金移動業に係る口座又は同条第三項に規定する第三種資金移動業を営む資金移動業者の第三種資金移動業に係る口座への資金移動を行う場合は、次に掲げる事項
 イ 当該資金移動業者の名称
 ロ 当該資金移動に係る額

報酬の額(7号)-算定方法による明示

明示事項のうち「報酬の額」(7号)については、具体的な金額を明確に記載することが原則ですが、やむを得ない事情がある場合には、算定方法による報酬の額の明示も認められています。

▽公取施行規則1条3項

 第一項第七号の報酬の額について、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合には、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法の明示をすることをもって足りる。

この算定方法は、

  • 算定根拠となる事項(変数)が決まれば、具体的な金額が自動的に確定するものでなければならない
  • 3条通知とは別に算定方法を明示することも許容されるが、算定方法の明示と3条通知が別のものである場合は、これらの相互の関連性(関連付け)を明記する必要がある
    (ex)単価表など、算定方法の記載で引用するものがある場合は、「報酬については、別紙の単価表に基づき算定した金額に、業務に要した交通費、○○費、▲▲費の実費を加えた額となります。」などと明示

とされています(ex はパンフレット 3-①参照)。

また、法令上の根拠があるかは明確でないですが、具体的な金額の確定後は速やかにその金額を明示する必要があるとされています。

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑶-キ-(ア)

…この算定方法は、報酬の額の算定根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に確定するものでなければならず、算定方法の明示と3条通知が別のものである場合においては、これらの相互の関連性を明らかにしておく必要があるほか、報酬の具体的な金額を確定した後、速やかに特定受託事業者に当該金額を明示する必要がある。

「やむを得ない事情」がある場合としては、例えば以下のものが挙げられています。

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑶-キ-(ア)

  • 原材料費等が外的な要因により変動し、これらに連動して報酬の額が変動する場合
  • プログラム作成委託において、プログラム作成に従事した技術者の技術水準によってあらかじめ定められている時間単価及び実際の作業時間に応じて報酬が支払われる場合
  • 一定期間を定めた役務提供であって、当該期間における提供する役務の種類及び量に応じて報酬の額が支払われる場合(ただし、提供する役務の種類及び量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)

給付の内容(3号)

また、明示事項のうち「給付…の内容」(3号)とは、物品及び情報成果物(役務提供委託の場合は、提供される役務)のことですが、その品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要があるとされています。

フリーランスに発生する知的財産権を譲渡/許諾させるときは、譲渡/許諾の範囲についても明確に記載する必要があります。

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑶-ウ

ウ 特定受託事業者の給付の内容(本法規則第1条第1項第3号)
「給付(法第二条第三項第二号の業務委託の場合は、提供される役務。第六号において同じ。)の内容」とは、業務委託事業者が特定受託事業者に委託した業務が遂行された結果、特定受託事業者から提供されるべき物品及び情報成果物(役務の提供を委託した場合にあっては、特定受託事業者から提供されるべき役務)であり、3条通知において、その品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要がある。
 また、委託に係る業務の遂行過程を通じて、給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者は、目的物を給付させる(役務の提供委託については、役務を提供させる)とともに、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「給付の内容」とすることがある。この場合は、業務委託事業者は、3条通知の「給付の内容」の一部として、当該知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明確に記載する必要がある。

少し話が前後しますが、知的財産権の譲渡/許諾をさせるときは、先ほど見た「報酬の額」(7号)に関しても、譲渡/許諾の対価を織り込んだものでなければなりません。

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑶-キ-(イ)

(イ) 知的財産権の譲渡・許諾がある場合
 業務委託の目的物たる給付に関し、特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託事業者が目的物を給付させる(役務の提供委託については、役務を提供させる)とともに、当該知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを含めて業務委託を行う場合には、当該知的財産権の譲渡・許諾に係る対価を報酬に加える必要がある。

明示方法

明示方法としては、

  • 1項本文に「原則的な明示方法」
  • 1項但書に「例外的な明示方法」
  • 2項に「書面交付請求による交付」

が、それぞれ定められています。

以下、順に見てみます。

原則的な明示方法(法3条1項本文)

原則的な明示方法は、

  • 書面の交付、または
  • 電磁的方法での提供

により、明示事項の全部を発注時に明示する、というものです。

▽法3条1項本文(※再掲)

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第三条
 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容報酬の額支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、…(略)…。

明示事項が網羅されていればよく、特に様式(=書式、フォーマット)の制約はありません。

書面に特に限定はなく、例えば、発注書、契約書などが考えられます。

別の言い方をすると、3条通知のための専用の書面でもいいですし、そうでなくてもいい(明示事項が記載されていれば、発注書や契約書で3条通知と兼ねることはOK)ということです。普通はたぶん後者かと思います。

受信と同時に書面により出力されるFAXは、書面にあたるとされています(解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑸-ア)。

電磁的方法での提供には、

  • 受信者を特定して電気通信により送信する方法
    ex.電子メール、各種のメッセージツール
  • 明示事項を電磁的に記録したファイルを交付する方法
    ex.USBメモリやCD-R等の交付

があります。①は、送信者が受信者を特定して送信できるものに限定されます(インターネット上に開設しているブログやウェブページ等への書き込み等は不可)。

▽公取施行規則2条(※【 】は管理人注)

(法第三条第一項の電磁的方法)
第二条
 法第三条第一項の公正取引委員会規則で定める電磁的方法は、次に掲げる方法のいずれかとする。
 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)により送信する方法【=受信者を特定して電気通信により送信する方法
 電磁的記録媒体(電磁的記録に係る記録媒体をいう。)をもって調製するファイルに前条に規定する事項を記録したものを交付する方法【=明示事項を電磁的に記録したファイルを交付する方法
 前項各号に掲げる方法は、前条に規定する事項が文字、番号、記号その他の符号で表示される方法でなければならない。

フリーランス法Q&A【Q40】

 3条通知を「電磁的方法による提供」により明示する方法とは、具体的にはどのような方法でしょうか。

① 受信者を特定して電気通信により送信する方法
 例えば、電子メール、チャットツール、SMSを用いて送信する方法が該当します。SNS、ウェブサイト、アプリケーション等のメッセージ機能を用いて送信する場合も同様です。
 明示事項は、メッセージの本文に記載する方法だけではなく、明示事項の掲載されたウェブページのURLをメッセージ上に記載する方法も認められます。また、受信者を特定して電気通信により送信する方法により明示する場合は、特定受託事業者の使用する通信端末機器等によりメッセージを受信したときに到達したものとみなされ、明示したことになります。ウェブメールサービス、クラウドサービス等の場合は、特定受託事業者が3条通知の内容を確認し得る状態となれば明示したことになります。
 なお、特にクラウドサービス等を利用する場合は、メッセージが削除されてしまったり、環境が変わって閲覧が不可能になってしまったりする可能性もあるため、業務委託事業者側・特定受託事業者側双方でスクリーンショット機能等を用いた発注内容の保存を行うことが望まれます。
② 明示事項を記録したファイルを交付する方法
 例えば、業務委託事業者が明示事項を記載した電子ファイルのデータを保存したUSBメモリやCD-R等を特定受託事業者に交付する方法が該当します。

継続的取引において共通事項がある場合

 また、取引条件の明示は原則として発注の都度・・・・・必要ですが、フリーランスとの取引は継続的に行われることがあるため、明示事項のうち一定期間共通である事項がある場合(例:支払方法、検査期間等)には、あらかじめこれらの事項を明示することで、発注の都度明示することは不要となります。

 つまり、共通事項についてはあらかじめ別に明示しておき、個々の発注時には明示を省略することもできるということです。

 この場合、個々の発注時には、あらかじめ明示した共通事項との関連性を明らかにする必要があります。

▽公取施行規則3条

(共通事項)
第三条
 第一条に規定する事項が一定期間における業務委託について共通であるものとして、あらかじめ、書面の交付又は前条に規定する電磁的方法による提供により示されたときは、当該事項については、その期間内における業務委託に係る明示は、あらかじめ示されたところによる旨を明らかにすることをもって足りる

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-⑶-コ

コ 共通事項がある場合の明示事項等(本法規則第3条)
 業務委託事業者は、原則として業務委託をした都度・・、3条通知により明示することが必要であるが、共通事項がある場合には、あらかじめ書面の交付又は電磁的方法による提供により共通事項を示したときは、共通事項を業務委託の都度明示することは不要となる。ただし、この場合、3条通知には、あらかじめ明示した共通事項との関連性を記載しなければならない。
 また、共通事項の明示に当たっては、当該共通事項が有効である期間も併せて明示する必要がある。例えば、ある共通事項について、新たな共通事項の明示が行われるまでの間は有効とする場合には、その旨を明示する必要がある。
 なお、業務委託事業者においては、年に1回、明示済みの共通事項の内容について、自ら確認し、又は社内の購買・外注担当者に周知徹底を図ることが望ましい。

 また、上記のように、共通事項の明示にあたっては、その共通事項が有効である期間を明記する必要があります。さらに、発注事業者は、明示した共通事項の内容について定期的に(年に1回)自ら確認する等が望ましいとされています。

例外的な明示方法(法3条1項ただし書)

当初明示と補充明示

例外的な明示方法として、当初明示をした後、補充明示をするという方法があります。

つまり、明示事項のうちその内容が定められないことについて正当な理由があって明示しない事項(「未定事項」)がある場合には、

  • これら以外の事項を明示(「当初明示」)した上で、
  • 未定事項の内容が定まった後、直ちにその明示事項を明示(「補充明示」)する、

というやり方です。

▽法3条1項ただし書(※【 】は管理人注)

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第三条
 …(略)…。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示【=補充明示】しなければならない。

この場合、当初明示では、

① 未定事項の内容が定められない理由
② 未定事項の内容を定めることとなる予定期日

を明示しなければなりません。

このような事項も含めて委託時に直ちに「当初明示」をしたうえで、未定事項の内容が定まってから直ちに「補充明示」をする、というやり方です。

▽公取施行規則1条4項

 法第三条第一項ただし書の規定に基づき、業務委託をしたときに明示をしない事項(以下「未定事項」という。)がある場合には、未定事項以外の事項のほか、未定事項の内容が定められない理由及び未定事項の内容を定めることとなる予定期日の明示をしなければならない。

また、当初明示と補充明示について、相互の関連性が明らかになるようにする必要があります。

▽公取施行規則4条(※【 】は管理人注)

(未定事項)
第四条
 法第三条第一項ただし書の規定に基づき、特定受託事業者に対し未定事項の明示【=補充明示】をするときは、当初の明示との関連性を確認することができるようにしなければならない。

内容が当初定められないことにつき正当な理由

では「正当な理由がある」とはどのようなものか?というと、発注時点ではその明示事項の内容について決定することができないと客観的に認められる場合、とされています。

例えば、ソフトウェアの作成でエンドユーザーの求める仕様が確定していないため発注時点では正確に委託内容を決められないとか、コンテンツの制作において発注時には具体的な番組内容まで確定できず、報酬額を決められない、といったケースがあります。

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑶-ケ-(ア)

(ア) その内容が定められないことにつき正当な理由があるもの
 未定事項であるとして明示を要しない事項とは、その内容が定められないことにつき正当な理由があるものをいう。その内容が定められない正当な理由があるとは、業務委託の性質上、業務委託をした時点では当該事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合をいう。業務委託事業者は、業務委託をした時点で、明示事項の内容について決定できるにもかかわらず、これを決定せず、これらの事項の内容を3条通知により明示しないことは認められない。

フリーランス法Q&A【Q39】

 3条通知において業務委託時に明示を要しない「その内容が定められないことにつき正当な理由がある」とは、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。

 「その内容が定められないことにつき正当な理由がある」とは、取引の性質上、業務委託をした時点では明示事項の内容を決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、例えば、次のような場合がこれに該当します。
・ ソフトウェアの作成委託において、業務委託時では最終ユーザーが求める仕様が確定しておらず、特定受託事業者に対する正確な委託内容を決定することができないため、「特定受託事業者の給付の内容」を定められない場合
・ 放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、業務委託時には、放送番組の具体的な内容については決定できず、「報酬の額」が定められない場合

なお、報酬の額に関して、算定方法による明示が可能な場合は、報酬の額につき「その内容が定められないことにつき正当な理由がある」とはいえず、算定方法による明示をする必要があります。

▽解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑶-ケ-(ア)

 なお、報酬の額として具体的な金額を定めることとなる算定方法を3条通知により明示することが可能である場合には、報酬の額についてその内容が定められないことにつき正当な理由があるとはいえず、3条通知により算定方法を明示する必要がある。詳細は前記キ(ア)参照。

書面交付請求による交付(法3条2項)

明示事項を電磁的方法での提供により明示した場合、フリーランスから書面の交付を求められたときは、遅滞なく、書面を交付する必要があります(法3条2項本文)。

例えば、SNSのサービス終了によって明示の内容が確認できないために、フリーランスが書面の交付を請求したケースなどが考えられます。

ただし、フリーランスの保護に支障を生ずることがない場合には、必ずしも書面を交付する必要はないとされています(ただし書)。

▽法3条2項

 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

下請法(3条書面)との関係

下請法との関係が気になるところですが、ルールとしては基本的に、両方が併行して走っています。

なので、フリーランス法の適用があるときはフリーランス法に、下請法の適用があるときは下請法に、両方の適用があるときは両方に、対応する必要があります。

3条通知については、下請法の3条書面のルールと重なる部分が多く、3条通知と3条書面を兼ねる運用も可能ですが、完全に重なっているわけではないので、注意が必要です。

フリーランス法Q&A【Q32】

 本法及び下請法の両法が適用される発注を行う場合には、発注事業者は受注事業者に対して本法の3条通知と下請法の3条書面の両方を作成し示さなければならないのでしょうか。

 発注事業者は、本法及び下請法の両法が適用される発注を行う場合、受注事業者に対して、同一の書面や電子メール等において、両法が定める記載事項を併せて一括で示すことが可能です。
 なお、この場合には、
① 本法と下請法のいずれかのみに基づく記載事項があるときは、その事項も記載する必要があること
② 電磁的方法による提供の場合には、下請法の規制(事前に下請事業者の承諾を得ること下請事業者が電磁的記録を出力して書面を作成できる方法によること)を遵守する必要があること
に留意が必要です。
※ 本法及び下請法における明示(記載)事項については、問35を御参照ください。

つまり、明示事項については、

  • 3条通知には、資金移動による支払いを行う場合の明示事項と、支払期日を定める義務につき再委託の場合の特例を用いる場合の明示事項がある(下請法の3条書面にはない)
  • 下請法の3条書面には、原材料等の有償支給に関する必要記載事項がある(3条通知にはない)

といった違いがあり、また、明示方法については、

  • 3条通知では、書面も電磁的方法も同格に位置づけられているが、
    =電磁的方法によるにあたり、特に要件は課されていない(フリーランスの承諾などは不要)(解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑸-イ)
  • 下請法の3条書面では、建付けとしては書面の方が原則的になっている
    =電磁的方法による(=電子受発注)には、下請事業者の事前の承諾など一定の要件を満たすことが必要

といった違いがあります。

フリーランス法Q&A【Q35】が相違点を直接取り上げたQ&Aとなっており、参考になります

下請法の3条書面(発注書面)については、以下の関連記事にくわしく書いています。

結び

今回は、フリーランス法を勉強しようということで、取引適正化に関する義務のうち取引条件の明示義務について見てみました。

最後に、本義務の適用場面を確認しておきます。以下の表の黄色ハイライト部分になります(要するに、本義務に関しては全ての場面に適用あり)。

【フリーランス法の義務と適用場面】

適用対象主体⇒
(業務委託事業者)
特定業務委託事業者以外 特定業務委託事業者
1か月未満 1か月以上 6か月以上
取引適正化に関する義務 取引条件の明示
②報酬支払期日の設定/期日内の支払い  
③7つの禁止行為    
就業環境整備に関する義務 ④募集情報の的確表示  
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮      
⑥ハラスメント対策に係る体制整備  
⑦中途解除等の事前予告・理由開示      

(※)上記のほか、報復措置の禁止は、取引適正化の義務につき業務委託事業者に適用(法6条3項)、就業環境整備の義務につき特定業務委託事業者に適用(法17条3項)

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

リンクをクリックすると、法令データ提供システム、公正取引委員会HPまたは厚生労働省HPに遷移します
  • フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文
  • 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
  • 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
  • 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
  • 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))(≫掲載ページ
  • 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)(≫掲載ページ
  • 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)(≫掲載ページ
  • フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)
  • フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)(≫掲載ページ

参考文献

リンクをクリックすると、公正取引委員会HPに遷移します
  • パンフレット(「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法」〔令和6年11月1日施行〕)(≫掲載ページ
  • 説明資料(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」〔令和6年11月1日施行〕)(≫掲載ページ

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