今回は、反社排除ということで、暴力団対策法(暴対法)と政府指針について見てみたいと思います。
反社会的勢力排除に関してまず踏まえるべき土台は、国の基本法制である「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴対法)と、その後政府が示した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(いわゆる政府指針)の二本柱です。
本記事ではこの二つの要点を、なるべく実務での使い方がイメージできるようにしながら整理してみます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
暴力団対策法
暴対法は、暴力団員の行う暴力的要求行為等に対して必要な規制を行い、対立抗争等による市民生活への危険を防止することを目的とする法律です(法1条)。
1991年(平成3年)に成立・公布され、全国の都道府県公安委員会が運用の要として位置づけられています。
▽暴対法1条
(目的)
第一条 この法律は、暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い、及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより、市民生活の安全と平穏の確保を図り、もって国民の自由と権利を保護することを目的とする。
規制の仕組み
この法律の特徴は、指定暴力団制度と、個々の暴力団員に対する行為規制です。指定暴力団に所属する構成員が、その組織の威力を示して不当な要求を行った場合、公安委員会は個別の行為者に対し中止命令や再発防止命令を発出し、違反すれば刑事罰が科される、という仕組みになっています。
地域や情勢により、より厳格な運用(特定抗争指定暴力団、特定危険指定暴力団の制度)も用意されています。
くわしくは以下の関連記事で解説していますが、大きく、
- 指定暴力団など規制対象の定義
- 暴対法による禁止行為
- 違反に対する措置(行政措置と刑事罰)
の3つに分けて考えるとわかりやすいです。
👉暴対法についての詳しい解説はこちら
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暴力団対策法|暴対法の全体像と規制の仕組みを解説~暴力団の定義・暴力的要求行為の禁止など
続きを見る
暴対法による禁止行為
暴対法による禁止行為にはさまざまなものがありますが、その中心は暴力的要求行為、つまり暴力団員が暴力団の威力を示してする不当要求行為です。
具体的には、暴対法9条で、1号から27号まで多様な行為類型(27の行為)が禁止の対象となっています。
▽暴対法9条
(暴力的要求行為の禁止)
第九条 指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。
一~二十七 (略)
典型例としては、みかじめ料・寄付金等の不当要求、下請受注や資材納入の強要、事故示談への不当介入、弱みにつけ込んだ口止め料要求などが挙げられます。
ただ、暴対法は、あくまでも行政法規としての規制・保護であるため、企業の内部統制や契約実務と直接に一体ではありません。
このギャップを埋めて企業側の行動原則を明確にしたのは、次の政府指針です。
政府指針
政府指針の正式名称は、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」で、2007年(平成19年)6月19日に犯罪対策閣僚会議で決定されました。
政府指針は、あくまでも犯罪対策閣僚会議幹事会の「申合せ」という位置付けであり、法的拘束力はありません(指針解説「⑴本指針の対象や法的性格」参照)。ただ、今日に至るまで反社排除対応の事実上の標準として参照され、各社のコンプライアンス体制や契約実務のベースになっています。
政府指針の新規性
政府指針の新規性は、端的にいうと、
- 反社会的勢力との一切の関係遮断
- 内部統制システムへの位置付け
の2点にあります。
①のように、政府指針は、反社会的勢力との一切の関係遮断を求めています。現在だと比較的当然のように感じられるかもしれませんが、当時、新規だった点は、不当要求の拒絶だけでなく、不当要求等の違法な手段を用いない平穏な取引つまり通常取引からも排除することを求め、反社会的勢力が取引社会に参入すること自体を否定した点です。
つまり、それまでは不当要求への対応(暴対法中心)がメインテーマだったのが、一切の取引遮断(政府指針)にシフトしたということです。
不当要求の拒絶から一切の取引遮断へ
| 相手 | 関係 | |
|---|---|---|
| Before | 暴力団からの | 不当要求の拒絶 |
| After | 反社会的勢力との | 一切の取引遮断 |
②は、一切の関係遮断を、取締役等の内部統制システム構築義務(あるいは善管注意義務)として位置付けたということです。
政府指針は、具体的には、基本原則とそれに基づく行動を示したものですが、反社会的勢力の定義にも触れている部分がありますので、以下、そこから見てみます。
「反社会的勢力」の定義
「反社会的勢力」について法律上の定義は存在しませんが、政府指針に基本的な定義があり、
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人
とされています。
その該当性判断にあたっては、属性要件に着目するとともに、行為要件にも着目することが重要であるとされています。
属性要件の例として挙げられているのは、「暴力団」「暴力団関係企業」「総会屋」「社会運動標ぼうゴロ」「政治活動標ぼうゴロ」「特殊知能暴力集団」等であり、これらは比較的イメージしやすいかと思います。
また、行為要件の例としては、「暴力的な要求行為」「法的な責任を超えた不当な要求」が挙げられています。こちらは若干イメージしにくいような気もしますが、前者は先ほど暴対法のところで見たような暴力的要求行為、後者は法的に正当な根拠がない、あるいは法的に認められる範囲を明らかに超えた過大な要求(損害賠償など)、というイメージです。
”属性要件とともに行為要件にも着目すべき”ということのニュアンスは、必ずしも属性要件を満たさない場合やグレーの場合であっても、行為要件に触れる(=暴力や威力、あるいは詐欺的な手口を使って理不尽な要求やお金儲けをしてくる)ようであれば、反社会的勢力に該当すると判断して取引社会から排除すべき、ということです。
▽政府指針別紙1頁 脚注
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。
5つの基本原則
政府指針は、企業がとるべき5つの基本原則(反社会的勢力による被害を防止するための基本原則)を示しており、
- 組織としての対応
:経営トップのコミットメントと一体の体制整備 - 外部専門機関との連携
:警察・暴追センター・弁護士会等との協働 - 取引を含めた一切の関係遮断
:平時からの関係遮断方針と契約・審査の実装 - 有事における民事・刑事の法的対応
:威力に屈しない法的対応 - 裏取引や資金提供の禁止
:不祥事隠しの口止め等を含む一切の取引拒絶
となっています(※説明部分は管理人による要約)。
基本原則に基づく対応
企業のとるべき具体的な行動は、大きく、平時(平素からの対応)と有事(不当要求があった場合の対応)に分けて示されており、概ね以下のようになっています。
企業のとるべき具体的行動
| 分類 | 具体的行動 |
|---|---|
| 平時 | 経営トップによる基本方針の宣言(および一連の取組み) |
| 反社会的勢力対応部署の設置 | |
| 一切の関係遮断(=未然の排除と取引関係の解消) | |
| 暴排条項の導入と自社の株式取引の監視(反社会的勢力が取引先や株主となって不当要求を行う場合の被害を防止するため) | |
| 反社会的勢力データベースの構築(=取引先の審査や株主の属性判断等を行う) | |
| 外部専門機関等との緊密な連携 | |
| 有事 | 速やかな報告・組織での対応 |
| 外部専門機関への相談 | |
| 従業員の安全確保と民事・刑事の法的手段の行使 | |
| 不祥事を理由とする不当要求への対応(=事実関係の調査と不当要求自体の拒絶) | |
| 資金提供の拒否(新たな弱みとなりさらなる不当要求を招く) |
まず方針の明文化です。経営トップの宣言により、反社会的勢力との一切の関係遮断を、企業の社会的責任・コンプライアンスとして社内規程等に落とし込みます。宣言は社外にも開示し、対外的には反社会的勢力をあらかじめ近づけないための牽制効果があるとともに、関係遮断の根拠ツールとしての効果もあります(「当社は一切の関係遮断を基本方針としています」といえる)。
次に入口管理です。新規・継続の取引先について、反社会的勢力該当性の審査(いわゆる反社チェック)を平時の業務プロセスに組み込み、疑義があれば外部専門機関・警察・弁護士に連携して対応方針を決めます。
契約では、いわゆる暴力団排除条項(反社排除条項)を定型化し、①相手方の表明保証、②該当時の無催告解除、③損害賠償などを一体で設計します。条項は政府指針の趣旨(関係遮断)を支えるものであり、反社会的勢力のあぶり出しとして機能するとともに(反社でないことにつき明確な回答をしない相手には契約自由の原則により契約の締結を拒否)、虚偽申告や不当要求が判明した場合の契約解除の基礎になります。
有事対応では、担当部署が記録化→速やかな社内通報→経営・法務・外部専門家への即時エスカレーションという一本の線で動けるようにします。相手が「不祥事の公表を盾に口止め料を迫る」などの典型事案でも、政府指針が明確に裏取引の禁止を求めていることから、安易な利益供与は禁物です。必要に応じて刑事告訴・民事仮処分といった法的手段を検討し、並行して公安委員会の枠組み(中止命令等)を活用できるよう警察と連携します。
最後に、教育と情報共有です。現場の一次対応で失敗しないよう、社内研修やケーススタディを通じて「要求に応じない」「支払わない」を徹底し、連絡ルートや記録様式を標準化します。定期的に最新動向を踏まえ見直すことも必要になります。
👉政府指針についての詳細解説はこちら
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反社排除法務|今さら聞けない「政府指針」って何?法的性格や企業に果たす意義を解説
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暴力団排除条例
なお、都道府県の暴力団排除条例(暴排条例)は本記事の対象外ですが、全国で整備・施行済みであり、暴対法・政府指針と併せて参照するのが通例です(以下参照)。
👉暴排条例について詳しく解説した個別記事はこちら(東京都暴排条例を例に)
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反社排除法務|暴力団排除条例(暴排条例)の全体像を解説~東京都暴排条例を例に
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結び
今回は、反社排除法務ということで、暴対法と政府指針の主なポイントについて見てみました。
暴対法は、指定暴力団員の不当要求を止めるための行政規制です。一方、政府指針は、企業の側に組織的な体制・契約・運用を求め、平時・有事の振る舞い方を定めています。
実務では、契約審査・条項整備、通報とエスカレーション・外部連携、教育といった社内のラインを固めますが、これらは主に政府指針からスタートした仕組みである一方、指針の背後には依然として従来型のオーソドックスな暴対法もベースとして存在します。これらを知っておくことが、構造理解に役立ちます。
本記事で全体像を把握しつつ、必要に応じて個別記事を参照していただければと思います。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
反社排除に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)※法律情報はこちら
- 暴対法施行令(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令」)
- 暴対法規則(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則」)
- 政府指針(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」)|犯罪対策閣僚会議HP(≫掲載ページ)
- 指針解説(「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」)|犯罪対策閣僚会議HP(≫掲載ページ)
- 組織犯罪対策要綱|警察庁HP(≫掲載ページ)
- 東京都暴排条例|東京都例規集データベース
- 東京都暴排条例Q&A(「東京都暴力団排除条例 Q&A」)|警視庁HP
参考文献
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