今回は、間接雇用等の類型ということで、労働者供給・労働者派遣・請負・出向の違いについて見てみたいと思います。
偽装請負とは何かなどについても併せて見てみます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
直接雇用(2者間の関係)
まず日常的に”雇用”というときの雇用から確認していくと、これは直接雇用であり、2者間の関係になります(労使の2者間関係)。
つまり、事業主(使用者)が、自らが雇用する労働者を自分の指揮命令下で労働させることです。
間接雇用等(3者間の関係)
上記以外に、労働者供給、労働者派遣、請負、出向(在籍出向)など、さらにもう1者が加わって3者間の関係が生じる形態があります(3者間関係)。
以下、順に見てみます。
労働者供給
労働者供給について定めているのは、職業安定法になります。
簡単に言うと、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることですが、労働者派遣については労働者派遣法によるため、職安法でいう「労働者供給」からは定義上除外されています(職安法4条8項)。
▽職安法4条8項
⑧ この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
もう少し具体的に見てみると、労働者供給には、供給元と労働者との間に雇用関係がない場合とある場合の、2パターンがあります。
①供給元と労働者との間に雇用関係がない場合
供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させる場合のうち、供給元と労働者との間に雇用関係がないものについては、すべて労働者供給に該当します。
労働者供給の典型はこちらの方です。供給元は、供給先で従事する労働者に対して指揮監督することはありませんが(使用者責任も負わない)、供給される労働者に対して何らかの意味での支配力を有し、これに基づいて利益を得るというものです。
労働者供給事業(=労働者供給を業として行うこと)は、職業安定法により原則として禁止されていますので(職安法44条)、職安法違反となります。
なお、このパターンは、供給元は労働関係の外にいるため、「他人の就業に介入」することに該当し労働基準法6条(中間搾取の排除)にも違反します。
▽労働基準法6条
(中間搾取の排除)
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
②供給元と労働者との間に雇用関係がある場合
①の場合とは異なり、供給元と労働者との間に雇用契約関係がある場合であっても、供給先に労働者を雇用させることを約して行われるものについては、労働者派遣には該当せず(労働者派遣法2条1号参照)、労働者供給となります。
なお、このパターンは、供給元は労働関係の中にいるため、労働基準法6条(中間搾取の排除)の違反にはなりません。
労働者供給と職安法については、以下の関連記事に書いています。
-
間接雇用等の類型|労働者供給・職業紹介と職業安定法
続きを見る
労働者派遣
労働者派遣について定めているのは、労働者派遣法になります。
定義は、労働者派遣法2条1号に定められており、
- 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、
- 他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることであり、
- 当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない
という3要件となっています。
▽労働者派遣法2条1号
(用語の意義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
図にすると、以下のとおりです。
労働者派遣事業は許可制となっていますので(労働者派遣法5条1項)、無許可で行うことは労働者派遣法違反となります。
労働者派遣と労働者派遣法については、以下の関連記事に書いています。
-
間接雇用等の類型|労働者派遣と労働者派遣法
続きを見る
請負
請負は、図にすると以下のとおりです。
発注者と労働者の間には指揮命令関係がない点で、労働者派遣と区別されます。
出向(在籍出向)
出向(在籍出向)は、図にすると以下のとおりです。
出向先と労働者との間に雇用関係がある点で、労働者派遣と区別されます。
在籍出向については、厚労省HPに以下の解説ページがあります。
在籍型出向支援|厚労省HP
区別が問題となる論点
以下、これらの区別が問題となる論点を2つ見てみます。
労働者派遣と請負の関係(偽装請負)
まず、一般的にもよく聞くところからいくと、偽装請負です。
「偽装」というのは、実際の”何か”を別の”何か”であると偽るわけですが、偽装請負の場合は、「何」を「何」と偽っているのでしょうか?
「偽装」というのは世の中にいろいろあり、身近なものでいえば「産地偽装」などがあると思います
これは、実際は”ナントカカントカ国”が産地であるのに、表示は”国産”と書いており(その方がよく売れるから)、産地に関して”ナントカカントカ国”を”日本国”に偽装しているわけです
偽装請負の場合も、3者間の関係(間接雇用等)に関して、何かを「請負」であると偽っているわけです。ではその何か(上記でいえば”ナントカカントカ国”に当たるもの、実際のところ)とは何でしょうか?
それは、労働者供給や労働者派遣です。「偽装請負」というのはよく耳にする言葉ではあるものの、結局、具体的に何の違反になるのかはあまり知られていない気もしますが、実際に何の違反になるのかは、実態が何であるのかによります。
実態が労働者派遣である場合
まず、実態が労働者派遣である場合です。
形式:請負
請負契約
【請負事業者】— — — — — — — — 【発注者】
\ /
雇用関係 \ ※指揮命令関係なし
\ /
【労働者】
実態:労働者派遣
労働者派遣契約
【派遣元】— — — — — — — — — — 【派遣先】
\ /
雇用関係 \ / 指揮命令関係
\ /
【労働者】
この場合、図を比較するとわかるように、発注者と労働者との間の関係が実態として指揮命令関係にあれば、労働者派遣に当たります。
にもかかわらず、許可をとってないわけですから、労働者派遣法違反になります。
よく偽装請負と言われるのは、この、実態が労働者派遣に当たるケース(発注者が労働者に指揮命令しているもの)が一番多いかと思います。
実態が労働者供給である場合
次は、実態が労働者供給の場合です。
形式:請負
請負契約
【請負事業者】— — — — — — — —【発注者】
\ /
雇用関係 \ ※指揮命令関係なし
\ /
【労働者】
実態:労働者供給①
供給契約
【供給元】— — — — — — — — — — —【供給先】
\ /
支配従属関係 \ / 雇用関係
\ / or 指揮命令関係
【労働者】
これは、労働者供給①のパターンです。先ほど見たように、労働者供給事業は職安法により原則禁止されていますので、職安法違反になります。
実際には発注者が労働者に対して指揮命令する関係(または雇用関係)があるということです
ただ、これは、請負事業者と労働者との間に雇用関係がないと判断されるケースということになりますので、あまり一般的なケースではないように思います。
なお、前述のように、この場合(労働者供給①のパターン)は「他人の就業に介入」することになるので、中間搾取の排除(労基法6条)にも違反します。
形式:請負
請負契約
【請負事業者】— — — — — — — —【発注者】
\ /
雇用関係 \ ※指揮命令関係なし
\ /
【労働者】
実態:労働者供給②
供給契約
【供給元】— — — — — — — — — —【供給先】
\ /
雇用関係 \ / 雇用関係
\ /
【労働者】
これは、労働者供給②のパターンです。先ほど見たように、労働者供給事業は職安法により原則禁止されていますので、職安法違反になります。
ただ、発注者と労働者との間に雇用関係があると判断されるケースということになりますので、これもあまり一般的なケースではないように思います。
なお、前述のように、この場合(労働者供給②のパターン)は、中間搾取の排除(労基法6条)の違反にはなりません。
労働者供給と出向の関係
次に、労働者供給と出向の関係についてですが、実は、出向(在籍出向)は労働者供給にあたります。
出向(在籍出向)は出向先との間で雇用関係が生じるため、以下の図のように、労働者供給②のパターンと同じ形態になっているわけです。
労働者供給②
供給契約
【供給元】— — — — — — — — — —【供給先】
\ /
雇用関係 \ / 雇用関係
\ /
【労働者】
出向(在籍出向)
出向契約
【出向元】— — — — — — — — —【出向先】
\ /
雇用関係 \ / 雇用関係
\ /
【労働者】
そうすると、”じゃあ在籍出向は違法になるのか?あんなに世間一般で行われているのに?”という気もしてきますが、職安法で原則禁止されているのは労働者供給事業(=労働者供給を業として行うこと)なので、業として行っているかどうかで違法がどうかが区別されています。
具体的には、以下の①~④(雇用機会の確保/技術指導/能力開発/グループ内人事交流)などのケースは、通常、労働者供給事業には該当しないとされています。
▽参考資料:労働者派遣と在籍型出向との差異|厚労省HP(≫掲載ページ)
○ しかし、在籍型出向の形態は、労働者供給に該当するので、その在籍型出向が「業として行われる」場合には、職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業に該当する。
〇 在籍型出向のうち、
①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
②経営指導、技術指導の実施
③職業能力開発の一環として行う
④企業グループ内の人事交流の一環として行う
等の目的を有しているものについては、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えている。
結び
今回は、間接雇用等の類型ということで、労働者供給・派遣・請負・出向の違いについて見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)
- パート・有期労働指針(「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」 (平成19年厚生労働省告示第326号))|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 労働者派遣法(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」)
- 労働者派遣法施行規則(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則」)
- 派遣元指針(「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」)|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 派遣先指針(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」)|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 派遣業務取扱要領(「労働者派遣事業関係業務取扱要領」)|厚労省HP
- 職業安定法
- 労供業務取扱要領(「労働者供給事業業務取扱要領」)|厚労省HP
- 同一労働同一賃金ガイドライン(「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号))|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 改正法施行通達(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」(基発0130第1号・職発0130第6号・雇均発0130第1号・開発0130第1号))|厚労省HP(≫掲載ページ)