今回は、不正競争防止法を勉強しようということで、不正競争行為のうち営業秘密に係る不正行為について見てみたいと思います。
なお、ネットでも見れるテキストとして、経産省HPに「不正競争防止法テキスト」(スライド形式)と「逐条解説 不正競争防止法」が掲載されています。
▷参考リンク:不正競争防止法(知的財産室)|経産省HP
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
基本構造
営業秘密に係る不正行為は、「営業秘密」の定義(3要件)と、これに関する「不正行為」の類型(6類型)が定められている、という構造になっています。
「営業秘密に係る不正行為」の基本構造
〇「営業秘密」の定義(2条6項):3要件
↓
〇「不正行為」の類型(2条1項4号~9号):6類型
本記事は、このうち行為類型についてです。
行為類型(法2条1項4号~9号)
行為類型には、4号~9号までの6類型があります。
大きくいうと、
- 営業秘密の不正取得に関する4号~6号
- 営業秘密の不正開示に関する7号~9号
という2つのグループに分かれます。
4号~6号は、秘密領域外の者が不正に取得しようとする行為を規制するのに対し、7号~9号は、秘密領域内の者が不正に漏えいしようとする行為を規制するもの、というイメージです。
条文を読んでみると、4号と7号がそれぞれのグループの起点になっていて、4号→6号までの流れと、7号→9号までの流れがパラレルな感じになっています。表にすると、以下のような感じです。
営業秘密の不正取得 | 営業秘密の不正開示 | |
---|---|---|
不正行為者 | 4号 | 7号 |
不正行為者から(取得時に)悪意重過失で取得した者 | 5号 | 8号 |
不正行為者から取得後に悪意重過失となった者 | 6号 | 9号 |
ただ、頭の整理ということであって、細かく厳密にパラレルになっているというわけではないです。くわしい中身は、以下のとおりです。
営業秘密の不正取得に関するもの(4号~6号)
第4号
第4号~第6号は、営業秘密の不正取得に関するグループで、第4号はその基本型になります。
「営業秘密不正取得行為」とは、窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為のことです。
(定義)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
四 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「営業秘密不正取得行為」という。)又は営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為(秘密を保持しつつ特定の者に示すことを含む。次号から第九号まで、第十九条第一項第六号、第二十一条及び附則第四条第一号において同じ。)
分節すると、以下のようになります。
⑴営業秘密不正取得行為
┗窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により
┗営業秘密を取得する行為
又は
⑵①営業秘密不正取得行為により取得した営業秘密を
②使用し、若しくは開示する行為
図にすると、以下のとおりです(マーカー部分が不正競争行為)。
【保有者】
↓ 営業秘密不正取得行為
【不正行為者】
↓ 使用又は開示行為
【第三者】
第5号
第5号は、不正取得行為の介在について悪意・重過失の転得者の不正競争行為を定めるものです。
⑴取得行為と、⑵その後の使用又は開示行為、の2つがあります。
五 その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
分節すると、以下のようになります。
⑴①営業秘密不正取得行為が介在したことを
②知って、若しくは重大な過失により知らないで
③営業秘密を取得し、
又は
⑵①その取得した営業秘密を
②使用し、若しくは開示する行為
図にすると、以下のとおりです(マーカー部分が不正競争行為)。
【保有者】
↓ 営業秘密不正取得行為
【他の不正行為者】
↓ 不正取得行為の介在について悪意・重過失で営業秘密を取得
【本号の不正行為者】
↓ 使用又は開示行為
【第三者】
第6号
第6号は、取得時には不正取得行為の介在について前号にあたらない場合(=善意・無重過失)であっても、その後に悪意・重過失に転じた場合に、その使用又は開示行為を不正競争行為とするものです。
何によって不正取得行為の介在を知るか(=悪意・重過失に転じるか)には、特に限定はなく、報道や保有者からの警告などが考えられます。
六 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
分節すると、以下のようになります。
①その取得した後に
②その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを
③知って、又は重大な過失により知らないで
④その取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
図にすると、以下のとおりです(マーカー部分が不正競争行為)。
【保有者】
↓ 営業秘密不正取得行為
【他の不正行為者】
↓ 不正取得行為の介在について善意・無重過失で営業秘密を取得
【本号の不正行為者】
↓ 悪意・重過失に転じた後の使用又は開示行為
【第三者】
営業秘密の不正開示に関するもの(7号~9号)
第7号
第7号~第9号は、営業秘密の不正開示に関するグループで、第7号はその基本型になります。
第7号は、保有者から営業秘密を示された(=正当に開示された)場合に、図利加害目的で、その営業秘密を使用又は開示する行為を不正競争行為とするものです。
正当に開示される場合としては、たとえば、従業員や、下請企業や、ライセンシーに対して営業秘密を開示する場合などがあります。
つまり、正当に開示された者、つまり、本来は秘密領域内にいる者が、これを秘密領域外へ持ち出したり使用したりする行為といえます。
七 営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
分節すると、以下のようになります。
①営業秘密保有者からその営業秘密を示された場合において、
②不正の利益を得る目的(図利目的)で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的(加害目的)で、
③その営業秘密を使用し、又は開示する行為
図にすると、以下のとおりです(マーカー部分が不正競争行為)。
【保有者】
↓ 正当に開示
【不正行為者】
↓ 図利加害目的での使用又は開示行為
【第三者】
第8号
第8号は、不正開示について悪意・重過失の取得者の不正競争行為を定めるものです。
八 その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
分節すると、以下のようになります。
⑴①営業秘密不正開示行為であること
┗a.図利加害目的での開示行為
┗b.守秘義務違反の開示行為
若しくは
②営業秘密不正開示行為が介在したことを
⑵①知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、
又は
②その取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
図にすると、以下のとおりです(マーカー部分が不正競争行為)。
【保有者】
↓ 正当に開示
【他の不正行為者】
↓ 営業秘密不正開示行為
↓ 営業秘密不正開示行為につき悪意・重過失で取得
【本号の不正行為者】
↓ 使用又は開示行為
【第三者】
第9号
第9号は、取得時には不正開示について前号にあたらない場合(=善意・無重過失)であっても、その後に悪意・重過失に転じた場合に、その使用又は開示行為を不正競争行為とするものです。
九 その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
分節すると、以下のようになります。
①その取得した後に
②その営業秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを
③知って、又は重大な過失により知らないで
④その取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為
図にすると、以下のとおりです(マーカー部分が不正競争行為)。
【保有者】
↓ 正当に開示
【他の不正行為者】
↓ 営業秘密不正開示行為
↓ 営業秘密不正開示行為につき善意・無重過失で取得
【本号の不正行為者】
↓ 悪意・重過失に転じた後の使用又は開示行為
【第三者】
法務でのかかわり(私見)
営業秘密の取扱いについて実定法に明文があるのは、実はこの不競法の「営業秘密に係る不正行為」だけです。
つまり、明確な手掛かりがあるのがこれだけなので、「営業秘密に係る不正行為」というのは、営業秘密を含む広い意味での“秘密情報の取扱い”について、多方面の法務に関する理解の土台となっているといえます(特に、「営業秘密」の定義に関する部分)。
例えば、広い意味での“秘密情報の取扱い”には、
- 営業秘密管理一般として経産省「営業秘密管理指針」「秘密情報の保護ハンドブック」
- 社内規程としての秘密情報管理規程
- 就業規則のなかの秘密保持条項
- 入社時/退職時の秘密保持誓約書
- 特定の重要プロジェクトにおいて役員や従業員に提出させる秘密保持誓約書
- NDA(秘密保持契約)といった契約書
- 諸々の契約書のなかの秘密保持条項
など多くのものがありますが、これらに関する理解の土台となるという意味で、一度押さえておくことが重要かと思います。
結び
今回は、不正競争防止法を勉強しようということで、営業秘密に係る不正行為のうち行為類型について見てみました。
営業秘密の定義については、以下の関連記事にくわしく書いています。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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参考文献・主要法令等
参考文献
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