令和7年法改正(令和8年1月施行)で、旧下請法は取適法となりました。委託事業者(発注側)がやってはいけない禁止事項は、全部で11項目あります。
これらは法5条に規定されているのですが、実は1項のグループと2項のグループで、違反となる要件が違うことをご存じでしょうか。本記事では、この1項と2項の違いを解説した上で、全11項目の禁止事項をざっと概観してみます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
第1項と第2項の違い
取適法5条は、委託事業者の禁止事項を以下2つのグループに分けています。
- 法5条1項(7項目):行為そのものが原則違反となる
- 法5条2項(4項目):利益を不当に害する場合にはじめて違反となる
条文を見てみます。
▽取適法5条
(委託事業者の遵守事項)
第五条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、第一号及び第四号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
一~七 (略)
2 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、第一号に掲げる行為を除く。)をすることによつて、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない。
一~四 (略)
このように、第1項は「次に掲げる行為をしてはならない」とされているのに対し、第2項は「次に掲げる行為をすることによって…不当に害してはならない」とされています。
第1項のグループ:「行為そのもの」が違反(原則)
第1項に挙げられている行為(受領拒否や減額など)は、その行為を行った時点で直ちに違法となります。相手も納得しているからとか、中小受託事業者の利益を害していないから、といった言い訳は通用しません。
いわば法律がこの行為自体が危険と定めているため、客観的にその行為があれば、問答無用で違反となります(※「中小受託事業者の責めに帰すべき理由(責任)」がある場合などの例外を除きます)。
第2項のグループ:「不当に害する」と違反
一方、第2項に挙げられている行為(仕様変更など)は、ビジネスの現場ではやむを得ず発生することがあるものです。そのため、行為そのものを一律に禁止するのではなく、それによって「中小受託事業者の利益を不当に害する場合」にはじめて違反となります。
例えば、仕様変更自体は禁止されていませんが、変更によって発生した追加費用を払わずに、中小受託事業者に損をさせる(利益を不当に害する)と違反になる、という構造です(3号:不当な給付内容の変更及びやり直しの禁止の場合)。
この違いを意識すると、禁止事項の勘所がつかみやすくなります。
第1項のグループ(法5条1項)
まずは、原則として行為そのものが違反となる第1項のグループ(7つ)を見ていきましょう。
受領拒否の禁止(1号)
これは、注文したのに商品を受け取らないことです。
納期通りに納品されたのに、「売れ行きが悪い」「倉庫がいっぱい」などの自社都合で受取りを拒否することは禁止されています。
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支払遅延の禁止(2号)
これは、支払期日までに代金を払わないことです。
物品等の受領日(役務提供日)から60日以内に定めた支払期日までに、代金を全額支払わないことは禁止されています。
また、今回の令和7年法改正で、手形での支払いや、現金同等性がないような(手数料がかかる・決済日が支払期日より後など)一括決済方式・電子記録債権での支払いも、この支払遅延に含められ、原則禁止となりました(手形払等の禁止)。
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代金の減額の禁止(3号)
これは、決めた金額を後から減らすことです。
発注時に決めた代金を、後から「歩引き」「協賛金」「手数料」などの名目で差し引くことは、たとえ合意があっても禁止です。
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返品の禁止(4号)
これは、受け取った後に送り返すことです。
一度受領したものは、不良品などの中小受託事業者の責任がない限り、返品できません。売れ残ったからとか、賞味期限切れなどの理由での返品は禁止です。
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買いたたきの禁止(5号)
これは、不当に安く買い叩くことです。
通常支払われる対価(市価)に比べて、著しく低い代金を一方的に決めることは禁止です。コストが上がっているのに価格を据え置く行為もこれに当たります。
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購入・利用強制の禁止(6号)
これは、自社商品などを押し売りすることです。
正当な理由(品質維持など)がないのに、自社の商品を買わせたり、指定するサービスを利用させたりすることは禁止されています。
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報復措置の禁止(7号)
これは、チクったら仕返しすることです。
中小受託事業者が公取委や中小企業庁に通報したことを理由に、取引を減らしたり停止したりする逆恨み的な報復は厳禁です。
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2項のグループ(法5条2項)
次は、やり方次第で違法になる第2項のグループ(4つ)です。これらは、コスト負担や協議がキーワードになります。
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(1号)
これは、有償支給の材料費を先に天引きすることです。
有償で支給した原材料費を、それを使って作った製品の代金支払日より前に支払わせたり、天引きしたりして、資金繰りを圧迫させる行為は禁止されています。
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不当な経済上の利益の提供要請の禁止(2号)
これは、タダ働きや寄付を強要することです。
協賛金としてお金を出させたり、業務外の作業(荷下ろしや手伝いなど)を無償でさせたりして、相手の利益を害することは禁止です。
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不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(3号)
これは、費用を払わずに仕様変更・やり直しをさせることです。
発注後に仕様を変更したり、受領後にやり直しをさせたりする場合、それに掛かる費用を委託事業者が負担しないことで、相手の利益を害することは禁止されています。
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協議に応じない一方的な代金決定の禁止(4号)【★新設】
これは、話し合いに応じず勝手に価格を決めることです。
ここは、令和7年法改正の目玉の一つになります(新設)。コスト上昇などの事情がある中で、中小受託事業者が価格の協議を求めたのに、無視したり、協議に応じなかったり、必要な説明をせずに一方的に価格を決めることは禁止されました。
これは、価格そのもの(買いたたき)だけでなく、協議しないプロセス自体が違法となる新しいルールです。
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結び
本記事のポイントをまとめます。
- 第1項の7つは、客観的にその行為があれば原則違反
- 第2項の4つは、相手に費用負担を強いるなどして「利益を不当に害する」と違反
特に第2項の行為は、頼んでやってもらうなら追加費用を払う、協議を求められたら誠実に応じる、といった姿勢があれば、違反を防ぐことができます。 この11項目をしっかり頭に入れて、適正な取引を行うことが求められます。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延損害金率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
参考資料
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