組織再編

組織再編|新設分割-新設分割計画

今回は、組織再編ということで、新設分割のうち新設分割計画について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

新設分割計画の作成(法762条)

新設分割を行う場合、分割会社(分割する側)は新設分割計画を作成しなければなりません(新設分割計画書)。

「分割計画書・・・」というのは聞き慣れない感じもしますが、新設分割に特有のものになります。まだ相手会社がいない(設立会社が成立していない)ためです。

ちなみに、吸収分割の場合に作成するのは「吸収分割契約書・・・」です(相手会社がいる)

▽会社法762条

(新設分割計画の作成)
第七百六十二条
 一又は二以上の株式会社又は合同会社は、新設分割をすることができる。この場合においては、新設分割計画を作成しなければならない
 二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をする場合には、当該二以上の株式会社又は合同会社は、共同して新設分割計画を作成しなければならない

【参考】単独分割と共同分割

 「一又は二以上の株式会社」とありますが、分割会社が1社の場合を単独分割、2社以上の会社が分割会社となり1社を設立する場合を共同分割共同新設分割)といいます(2項参照)。

 ちなみに、共同新設分割は、会計上は、企業結合の分類のうち「共同支配企業の形成」にあたり、合弁会社の設立とともにこのカテゴリの典型例になります。

法定記載事項(法763条1項)

新設分割計画書には、法定記載事項があります。

▽会社法763条1項

(株式会社を設立する新設分割計画)
第七百六十三条
 一又は二以上の株式会社又は合同会社が新設分割をする場合において、新設分割により設立する会社(以下この編において「新設分割設立会社」という。)が株式会社であるときは、新設分割計画において、次に掲げる事項を定めなければならない
十二 (略)

先に全体像を見ておくと、以下のとおりです。

新設分割計画の法定記載事項(法763条)

  • 設立会社の定款で定める事項(1号・2号)
  • 設立会社の取締役等の氏名(3号・4号)
  • 分割会社から承継する権利義務に関する事項(5号)
  • 分割条件(6号~11号)
    • 分割会社への対価に関する事項(6号~9号)
    • 分割会社の新株予約権者への対価に関する事項(10号・11号)
  • 設立会社の資本金の額及び準備金に関する事項(6号後段)
  • 分割会社における剰余金の配当等(12号)

以下、それぞれの事項を順に見てみます。

設立会社の定款で定める事項(1号・2号)

これは、新設分割では新たな会社が設立されるので(設立会社。分割により設立される側)、その会社の定款が分割計画書の法定記載事項になっているということです。

▽会社法763条1項1号・2号(※【 】は管理人注)

1号・2号:設立会社の定款で定める事項
 株式会社である新設分割設立会社(以下この編において「新設分割設立株式会社」という。)の目的商号本店の所在地及び発行可能株式総数
 前号に掲げるもののほか、新設分割設立株式会社の定款で定める事項

設立会社の取締役等の氏名(3号・4号)

これも、新設分割では新たな会社が設立されるので、その会社の機関である取締役等が分割計画書の法定記載事項になっているということです。

▽会社法763条1項3号・4号(※【 】は管理人注)

3号・4号:設立会社の取締役等の氏名
 新設分割設立株式会社の設立時取締役の氏名
 次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める事項
  新設分割設立株式会社が会計参与設置会社である場合 新設分割設立株式会社の設立時会計参与の氏名又は名称
  新設分割設立株式会社が監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合 新設分割設立株式会社の設立時監査役の氏名
  新設分割設立株式会社が会計監査人設置会社である場合 新設分割設立株式会社の設立時会計監査人の氏名又は名称

なお、設立会社が監査等委員会設置会社である場合は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して定める必要があります(2項)。

▽会社法763条2項

 新設分割設立株式会社が監査等委員会設置会社である場合には、前項第三号に掲げる事項は、設立時監査等委員である設立時取締役それ以外の設立時取締役とを区別して定めなければならない。

分割会社から承継する権利義務に関する事項(5号)

これが重要なところですが、分割によって分割会社から設立会社に承継される権利義務が法定記載事項になっているということです。

通常、分割計画書別紙の「承継権利義務明細表」等として記載されます。

▽会社法763条1項5号(※【 】は管理人注)

5号:分割会社から承継する権利義務に関する事項
 新設分割設立株式会社が新設分割により新設分割をする会社(以下この編において「新設分割会社」という。)から承継する資産債務雇用契約その他の権利義務(株式会社である新設分割会社(以下この編において「新設分割株式会社」という。)の株式及び新株予約権に係る義務を除く。)に関する事項

分割条件-分割会社への対価に関する事項(6号~9号)

これは、設立会社から分割会社に交付する分割対価のことで、

  • 分割対価の内容と数・額(または算定方法
  • (共同新設分割の場合は)割当比率

が法定記載事項となっているということです。

分割対価の内容というのは、設立会社の株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債といった、分割対価の種類のことです。ただし、吸収合併の場合のような、その他の財産(ex. 金銭や親会社株式)というのはないことに注意が必要です(会社法749条1項3号ホに相当する内容はない)。

分割対価の数・額というのは、分割対価の内容に応じ、具体的には、

  1. 分割対価である株式(6号)
    →株式の数(または算定方法)
  2. 分割対価が社債の場合(8号イ)
    →社債の種類と総額(または算定方法)
  3. 合併対価が新株予約権の場合(8号ロ)
    →新株予約権の内容と数(または算定方法)
  4. 合併対価が新株予約権付社債の場合(8号ハ)
    →社債部分につき上記2、新株予約権部分につき上記3

となっています。

なお、新設される設立会社も株式会社である以上、株主が必要ですので、設立会社の株式(上記1)は必ず交付されます(6号の条文は「〇〇であるときは・・・・・・」とはなっていない)。

”必ず交付される”というのは、新設分割に際して設立会社の株式が全く発行されないというのはあり得ないという意味なので、共同新設分割において、分割会社A社には株式が交付されるけれども、分割会社B社には株式が交付されない(それ以外の対価が交付される)ということはあります

割当比率(共同新設分割の場合)は、分割会社が2社以上の場合の、各分割会社に対する割当比率のことです(7号、9号)。

条文も確認してみます。

▽会社法763条1項6号~9号(※【 】は管理人注)

6号~9号:分割条件
 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付するその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該新設分割設立株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項
 二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をするときは、新設分割会社に対する前号の株式の割当てに関する事項【=割当比率
 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の社債等を交付するときは、当該社債等についての次に掲げる事項
  当該社債等が新設分割設立株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
  当該社債等が新設分割設立株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
  当該社債等が新設分割設立株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのイに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのロに規定する事項
 前号に規定する場合において、二以上の株式会社又は合同会社が共同して新設分割をするときは、新設分割会社に対する同号の社債等の割当てに関する事項【=割当比率

分割条件-分割会社の新株予約権者への対価に関する事項(10号・11号)

これは、分割会社が新株予約権を発行している場合の話です。

分割会社が新株予約権を発行している場合、設立会社はそれに代わり設立会社の新株予約権を交付することもできますし、交付しないこともできます。

新設分割の場合、分割会社自体は存続し続ける(吸収合併の消滅会社のように消えてなくなったりしない)ので、吸収合併の場合と異なり、分割会社の新株予約権に対して必ず対価を交付するというふうにはなっていません

交付する場合は、実質的に設立会社が分割会社の新株予約権を承継するようなイメージになります。

例えば、分割会社で分割により承継される事業に従事している役員や従業員が、インセンティブ報酬としてストック・オプションを有していたが、新設分割に伴って設立会社に移るようなケースでこれを行うことが考えられます(設立会社のストック・オプションを持つ形にするのが適切だと思われるような場合に)。

交付する場合、

  • 分割会社の新株予約権の内容
  • 交付する新株予約権の内容と数・額(または算定方法)
  • (共同新設分割の場合は)割当比率

が法定記載事項になっています。

上記2つめの、交付する新株予約権の数・額については、具体的には、

  1. 通常の新株予約権の場合(10号ロ)
    →新株予約権の内容と数(または算定方法)
  2. 新株予約権付社債に付された新株予約権の場合(10号ハ)
    →設立会社が社債に係る債務を承継する旨、並びに、社債の種類と総額(または算定方法)

となっています。上記2の前半部分はつまり、社債部分を設立会社が承継するということです。

条文も確認してみます。

▽会社法763条1項10号・11号(※【 】は管理人注)

10号・11号:分割会社の新株予約権者への対価に関する事項
 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割株式会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該新設分割設立株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権についての次に掲げる事項
  当該新設分割設立株式会社の新株予約権の交付を受ける新設分割株式会社の新株予約権の新株予約権者の有する新株予約権(以下この編において「新設分割計画新株予約権」という。)の内容
  新設分割計画新株予約権の新株予約権者に対して交付する新設分割設立株式会社の新株予約権の内容及び数又はその算定方法
  新設分割計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、新設分割設立株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
十一 前号に規定する場合には、新設分割計画新株予約権の新株予約権者に対する同号の新設分割設立株式会社の新株予約権の割当てに関する事項【=割当比率

設立会社の資本金の額及び準備金に関する事項(6号後段)

設立会社の資本金及び準備金の額に関する事項が法定記載事項になっています。

▽会社法763条1項6号後段(※【 】は管理人注)※再掲

6号:設立会社の資本金の額及び準備金に関する事項(後段)
 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付するその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該新設分割設立株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項

分割会社における剰余金の配当等(12号)

これは、いわゆる人的分割を実施する場合に必要な手続になります。

▽会社法763条1項12号(※【 】は管理人注)

12号:分割会社における剰余金の配当等
十二 新設分割株式会社が新設分割設立株式会社の成立の日に次に掲げる行為をするときは、その旨
  第百七十一条第一項の規定による株式【=全部取得条項付種類株式の取得(同項第一号に規定する取得対価が新設分割設立株式会社の株式(これに準ずるものとして法務省令で定めるものを含む。ロにおいて同じ。)のみであるものに限る。)
  剰余金の配当配当財産が新設分割設立株式会社の株式のみであるものに限る。)

人的分割というのは何かというと、交付する株式の割当てによって分類すると、会社分割の形態には、

  • 物的分割:承継会社(新設分割の場合は設立会社)が交付する株式を分割会社・・に割り当てる場合
  • 人的分割:承継会社(新設分割の場合は設立会社)が交付する株式を分割会社の株主・・に割り当てる場合

があります。

ただ、会社法では、人的分割は、承継会社の株式を分割会社が取得し、取得した承継会社株式を分割会社の株主に現物配当すると考えている(物的分割+剰余金配当と構成している)ため、物的分割と人的分割はまとめて規定されています。

会社分割の形態

吸収分割新設分割
物的分割分割会社が承継会社に事業を承継させ、承継会社が承継に際して交付する株式を分割会社に割り当てる分割会社が設立会社に事業を承継させ、設立会社が承継に際して交付する株式を分割会社に割り当てる
人的分割分割会社が承継会社に事業を承継させ、承継会社が承継に際して交付する株式を分割会社の株主に割り当てる分割会社が設立会社に事業を承継させ、設立会社が承継に際して交付する株式を分割会社の株主に割り当てる

つまり、分割対価として設立会社から交付された株式を、全部取得条項付種類株式の取得の対価(12号イ)または剰余金の配当(12号ロ)という形で、分割会社の株主に交付・配当するということです。これにより、人的分割が実現されます。

これらを行う場合、新設分割計画書の法定記載事項になっているという意味になります。

任意的記載事項

以上のほかにも、新設分割計画において、法定記載事項以外の事項(任意的記載事項)を記載することもできます。

例えば、吸収分割の場合でも同様ですが、会社分割についても事業譲渡における法定の競業避止義務の類推適用があるとの見解もありますので、競業避止義務について明文の規定を置くことが考えられます。

純粋なグループ内再編の場合は、普通、競業避止義務は排除しておくことと思います。

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結び

今回は、組織再編ということで、新設分割のうち新設分割計画について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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