開示制度

開示制度|適時開示-発生事実に関する開示

今回は、開示制度ということで、適時開示(取引所規則に基づく開示)のうち発生事実に関する開示について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

発生事実の開示時期

発生事実とは、会社に発生した重要事実のことで、発生後直ちに開示することとされています(上場規程402条、403条)。

実務上、遅くとも発生した日のうちには開示しなければなりません。実際の時刻としては、その日の取引時間の終了後(引け後)に開示されることも多いかと思います(適時開示ガイドブック第1編第2章2-⑴-④)。

発生事実は、決定事実のように上場会社が自らの意思で決定する事柄ではなく、外的な要因により生じるものですが、具体的には、発生を認識した時点で開示しなければならないとされています(適時開示ガイドブック第1編第2章2-⑴-②)。

発生事実の種類

上場会社の発生事実と子会社の発生事実

発生事実には、上場会社における発生事実のほか、子会社における発生事実もあります。

前者は上場規程402条2号に、後者は上場規程403条2号に定められています。

▽上場規程402条2号

(会社情報の開示)
第402条

 上場会社は、次の各号のいずれかに該当する場合(施行規則で定める基準に該当するものその他の投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものと当取引所が認めるものを除く。)は、施行規則で定めるところにより、直ちにその内容を開示しなければならない
(2) 次のaからxまでに掲げる事実のいずれかが発生した場合
a~x (略)

▽上場規程403条2号

(子会社等の情報の開示)
第403条

 上場会社は、その子会社等が次の各号のいずれかに該当する場合(第1号に掲げる事項及び第2号に掲げる事実にあっては施行規則で定める基準に該当するものその他の投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものと当取引所が認めるものを、第3号aに定める法第166条第2項第5号に掲げる事項及び第3号bに定める法第166条第2項第6号に掲げる事実にあっては投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして取引規制府令で定める基準に該当するものを除く。)は、施行規則で定めるところにより、直ちにその内容を開示しなければならない
(2) 上場会社の子会社等に次のaからlまでに掲げる事実のいずれかが発生した場合
a~l (略)

「子会社等」の定義

子会社等」の定義は、上場規程402条1号qの括弧書きに定められており、

法第166条第5項に規定する子会社をいい、上場外国会社(当取引所が必要と認める者に限る。)にあっては、その子会社、関連会社その他の当取引所が必要と認める者をいう。

とされています。法は金融商品取引法のことで、法166条はインサイダー取引規制を定めた条文です。

 そして、法第166条第5項に規定する子会社というのは、要するに、有価証券報告書や半期報告書など上場会社の直近の法定開示書類において、その上場会社の企業集団(金商法5条1項2号)に属する会社として記載されている会社のことです。

▽参考:企業集団の定義(金商法5条1項2号の抜粋)

企業集団(当該会社及び当該会社が他の会社の議決権の過半数を所有していることその他の当該会社と密接な関係を有する者として内閣府令で定める要件に該当する者(内閣府令で定める会社その他の団体に限る。)の集団をいう。以下同じ。)…

それぞれの発生事実

それぞれの発生事実は、以下のようになります。上場会社の発生事実と子会社の発生事実で、対応するものが対になるように並べています(※内容は適宜要約しています)。

【発生事実】

上場会社における発生事実子会社における発生事実
a 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害a 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
b 主要株主又は主要株主である筆頭株主の異動
c 特定有価証券又は特定有価証券に係るオプションの上場の廃止の原因となる事実
d 訴訟の提起又は判決等b 訴訟の提起又は判決等
e 仮処分命令の申立て又は決定等c 仮処分命令の申立て又は決定等
f 行政庁による法令等に基づく処分又は行政庁による法令違反に係る告発d 行政庁による法令等に基づく処分又は行政庁による法令違反に係る告発
g 支配株主の異動又は上場会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社の異動
h 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は企業担保権の実行の申立てe 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は企業担保権の実行の申立て
i 手形等の不渡り又は手形交換所による取引停止処分f 手形等の不渡り又は手形交換所による取引停止処分
j 親会社等に係る破産手続開始の申立て等g 孫会社に係る破産手続開始の申立て等
k 債権の取立て不能又は取立て遅延h 債権の取立て不能又は取立て遅延
l 主要取引先又は複数の取引先との取引停止i 主要取引先又は複数の取引先との取引停止
m 債権者による債務免除等の金融支援j 債権者による債務免除等の金融支援
n 資源の発見k 資源の発見
nの2 特別支配株主による株式等売渡請求等
o 株式若しくは新株予約権の発行又は自己株式の処分の差止請求
p 株主による株主総会の招集請求
q 保有有価証券の含み損
r 社債に係る期限の利益の喪失
s 上場債券に関する権利に係る重要な事実等
t 公認会計士等の異動
u 有価証券報告書又は半期報告書の提出遅延
uの2 有価証券報告書又は半期報告書の提出期限延長の承認を受けたこと又は受けられなかったこと
v 継続企業の前提に関する事項の監査意見の対象からの除外
vの2 内部統制報告書に対する内部統制監査報告書について「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨が記載されることとなったこと
w 株式事務代行委託契約の解除通知の受領等
x その他会社の運営、業務、財産又は上場有価証券に関する重要な事実l その他子会社等の運営、業務、財産に関する重要な事実

▷参考リンク:適時開示が求められる会社情報|日本取引所グループHP

包括条項

 発生事実のうち最後はどちらも「〇〇から○○までに掲げる事実のほか、…(略)…重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」という定め方になっており、包括条項とかバスケット条項とか呼ばれます。

 つまり、個別列挙されていないものについても、投資判断に重大な影響を与えるものについては網をかけるための条項です。

個別列挙して具体性を確保しつつ、そこから漏れるものや当初想定し難かったものを包括条項で拾うという建付けは、よくある一般的な定め方です。インサイダー取引規制上の重要事実も、そのような定め方になっています。

 「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす」かどうかは、発生事実の内容、その影響等を踏まえて、実質的に判断することが求められるとされており、開示の目安もいくつか示されています(適時開示ガイドブック第2編第2章27-⑴)。

▽参考リンク
その他上場会社の運営、業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事実|日本取引所グループHP

結び

今回は、開示制度ということで、適時開示のうち発生事実に関する開示について見てみました。

適時開示は取引所規則に基づく開示であり、TDnetTimely Disclosure network:「適時開示情報伝達システム」)の閲覧サイトである「適時開示情報閲覧サービス」で見ることができます。

▽参考リンク
適時開示情報閲覧サービス(TDnetの閲覧サイト)
TDnetの概要|日本取引所グループHP

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

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【金商法に基づく開示(法定開示)】

【取引所規則に基づく開示(適時開示)】

  • 上場規程(「有価証券上場規程」(東京証券取引所))
  • 上場規則(「有価証券上場規程施行規則」(東京証券取引所))
  • 実務要領(「適時開示に関する実務要領」)
  • 作成要領(「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」)

【会社法に基づく開示】

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