今回は、中小受託取引適正化法(取適法)ということで、委託事業者の禁止事項のうち代金の支払遅延の禁止について見てみたいと思います。
取適法では、立場が弱い中小受託事業者が発注元の都合によって不当な不利益を被ることを防ぐために、委託事業者の11の禁止事項を定めており、その一つに代金の支払遅延の禁止があります。
令和7年法改正(令和8年1月1日施行)により、支払手段に関する規制が強化されました。本記事では、何が支払遅延に該当するのか実務上誤解しがちな部分や、新たな禁止事項を含めて解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
代金の支払遅延の禁止
支払遅延とは、製造委託等代金を、その支払期日の経過後なお支払わないことを指します(法5条1項2号)。
支払期日までに代金の支払を受けられなければ、中小受託事業者の資金繰りがつかず、従業員への賃金の支払や材料代の支払等が困難になり、最悪の場合、倒産に追い込まれることもあり得ます。
しかし、力関係の差から中小受託事業者の側から督促するのが現実には困難なので、取適法により委託事業者に対し支払遅延を禁止しています。
▽取適法5条1項2号
(委託事業者の遵守事項)
第五条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為…(略)…をしてはならない。
二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと…(略)…。
「支払期日」:支払期日の設定ルール
ここで重要となるのが、支払期日の設定ルールです(これを過ぎると遅延となるため)。
委託事業者は、受領日から60日以内(受領日を算入する)で、かつ、できる限り短い期間内において、支払期日を定めなければなりません(支払期日を定める義務。法3条1項)。
もし、60日を超えて定めた場合は受領日から60日目が、支払期日を定めなかった場合は受領日が、法律上の支払期日とみなされます(同条2項)。
つまり、支払期日の定まり方は以下のようになっています。
なお、当然ながら、②③は支払期日が定まるとはいっても、支払期日を定める義務(法3条1項)には違反していることになります。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑸-イ-支払期日と支払遅延の関係
(イ) 支払期日が受領日から60日を超えて定められている場合は、受領日から60日目までに代金を支払わないとき(この場合、本法に定める範囲を超えて支払期日が設定されており、それ自体が支払期日を定める義務に違反する。)。
「なお支払わないこと」
代金の支払遅延の禁止に関しては、委託事業者の禁止事項に関する他のいくつかの規定のような「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに」といった例外文言がついていません。
つまり、支払遅延の例外事由は一切認められていないということです。
例えば、中小受託事業者からの要請・合意などがあっても、違反となります。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑸-イ【Q78】
中小受託事業者から当月納入分を翌月納入分として扱ってほしいと頼まれ、代金も翌月納入されたものとみなして支払ったが、支払遅延として問題となるか。
中小受託事業者から依頼があっても、又は、委託事業者と中小受託事業者との間で合意があったとしても、代金は受領日から起算して60日以内に定めた支払期日までに支払わなければならない。
注意すべき支払遅延の具体例
支払期日の定まり方以外にも、現実には運用上の理由で支払いが遅れるケースがありますが、以下のような理由があっても、支払期日を過ぎれば違反となります。
「請求書が届いていない」は理由にならない
経理処理上、請求書が必要であっても、それを理由に支払いを遅らせることはできません。
- 中小受託事業者からの請求書の提出が遅れたことを理由に、あらかじめ定められた支払期日を超えて支払った
そのため、請求書の提出が遅れないよう早期に督促するか、請求書なしで支払える体制を整える必要があります。
「相手(中小受託事業者)も請求書出してくるの遅いんですけど…」みたいな声が聞こえてくる場面は実際にけっこうあったりしますが、明確にNGとされています。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑸-イ【Q77】
委託事業者が、中小受託事業者からの請求書に基づき代金を支払っている場合に、中小受託事業者からの請求書の提出が遅れた場合も、支払期日までに払う必要があるか。
中小受託事業者からの請求書の提出の有無にかかわらず、受領後60日以内に定めた支払期日までに代金を支払う必要がある。
「検査が終わっていない」は理由にならない
検収締切制度を採用している場合にある事例です。受領日から60日以内に代金を支払う義務は、検査の実施有無や合否にかかわらず発生します。
- 「毎月末日検収締切、翌月末日支払」という制度で、検査が長引いたため、受領日から60日を超えて支払った
金融機関の休業日による順延
支払期日が土日祝日などの金融機関休業日に当たる場合、翌営業日に支払うことは一般的ですが、取適法上は注意が必要です。
- あらかじめ書面等による合意がないのに、支払期日を翌営業日に順延し、結果としてあらかじめ定められた支払期日を過ぎて支払った
この点は、順延期間が2日以内であり、かつあらかじめ書面(または電磁的記録)で合意している場合に限り、問題とされないことになっています。
手形の交付禁止等を含む(令和7年法改正)
また、令和7年法改正におけるポイントとして、支払手段に関する規制の強化があります。従来は認められていた以下①②の行為が、支払遅延(禁止事項)として扱われることになりました。
条文では2号の括弧書きに書かれており、「なお支払わないこと」にこれらを含めるという構成になっています。
▽取適法5条1項2号
二 製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること並びに金銭及び手形以外の支払手段であつて当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することを含む。)。
①手形の交付の禁止
代金の支払について、手形を交付すること自体が禁止されました。
これまであった手形払いは、中小受託事業者の資金繰りを悪化させる要因となるため、取適法の適用対象となる取引においては認められなくなります。
②困難な支払手段の使用禁止
手形以外の一括決済方式(ファクタリング等)や電子記録債権であっても、以下の場合は支払期日までに現金化が困難なものとして、使用が禁止されます(支払遅延とみなされる)。
- 満期日・決済日が支払期日より後に到来する場合:
たとえ委託事業者が割引料を負担したとしても、中小受託事業者が支払期日に現金を得るために割引等の手続を要するものは、現金と同等の経済的効果がないとして認められません - 中小受託事業者に手数料負担がある場合:
一括決済方式や電子記録債権を使用する際に、中小受託事業者が決済に伴う手数料(受取手数料等)を負担する必要がある場合も、支払遅延に該当します
取適法テキストも確認してみます。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑸-イ-「なお支払わないこと」
金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段とは、例えば、以下のような一括決済方式又は電子記録債権をいい、こうした支払手段を用いる場合は支払遅延となる(一括決済方式については141ページ、電子記録債権については146ページ参照)。
(ア) 一括決済方式又は電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が代金の支払期日より後に到来する場合において、支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するもの
(イ) 中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる受取手数料等(例えば、決済手数料、振込手数料)を負担する必要があるもの
結び
取適法における支払遅延の禁止は、中小受託事業者の資金繰りを守るための基本的なルールといえます。特に令和7年法改正で手形払いが禁止された点は、実務にも影響があります。
支払遅延の禁止のポイントをまとめます。
「支払遅延の禁止」のポイント
- 受領日(役務提供日)から60日以内の支払期日設定を厳守する
- 手形や現金同等性のない電子記録債権等での支払いを廃止する
- 請求書未着や検査遅れを理由とした遅延を排除する
これらのポイントを再確認し、社内の支払システムや契約条件の見直しを進めることが求められます。
次の記事は、代金の減額の禁止についてです。
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