今回は、中小受託取引適正化法(取適法)ということで、委託事業者の禁止事項のうち買いたたきの禁止について見てみたいと思います。
取適法では、立場が弱い中小受託事業者が発注元の都合によって不当な不利益を被ることを防ぐために、委託事業者の11の禁止事項を定めており、その一つに買いたたきの禁止があります。
原材料費やエネルギーコストの高騰、そして賃上げの社会的要請が高まる中、委託事業者(発注側)にとってセンシティブな禁止行為が買いたたきの禁止です。
価格交渉はビジネスの常識と思われがちですが、優越的な地位を利用した一方的な価格決定は、法令違反に問われます。本記事では、買いたたきの定義、判断基準、そして実務上陥りやすい違反事例について解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
買いたたきの禁止
買いたたきとは、通常の対価を大幅に下回る代金の額を一方的に定めることです。
▽取適法5条1項5号
(委託事業者の遵守事項)
第五条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為…(略)…をしてはならない。
五 中小受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い製造委託等代金の額を不当に定めること。
代金の減額禁止(3号)は、いったん決定された代金の額を事後に減ずるものであったのに対して、この買いたたきの禁止(本号)は、委託事業者が中小受託事業者に発注する時点で生ずるものです。
「通常支払われる対価」
ここでのポイントは、「通常支払われる対価」(市価)との乖離です。
通常支払われる対価とは、
当該給付と同種又は類似の給付について当該中小受託事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)
とされており(取適法運用基準)、要するに、同種又は類似品の市場価格(=市価)のことです。
ただ、市価の把握が困難なケースもあります。その場合、運用基準では以下の額が比較対象(通常支払われる対価)として取り扱われます。
- 従前の単価(過去の取引における単価で計算された額)
- コストの著しい上昇が公表資料から把握できる場合は、コスト上昇反映額
後者はつまり、「コストが上がっているのに、価格を据え置くこと」自体が「通常支払われる対価より著しく低い額」とみなされ、買いたたきに該当するリスクが高まるということです。
取適法運用基準を確認してみます。
▽取適法運用基準 第4-5-⑴
「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該中小受託事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い製造委託等代金の額」として取り扱う。
ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い代金の額
イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた代金の額
「著しく低い」「不当に定める」
「買いたたき」該当性は総合判断
買いたたきに該当するか否かは、以下のような要素を勘案して総合的に判断されます(取適法運用基準 第4-5-⑴)。
「買いたたき」に該当する危険な価格決定
買いたたきに該当するか否かは、上記のように、単に金額の多寡だけでなく、代金の決定に当たり中小受託事業者と十分な協議が行われたかどうかというプロセスも重要視されます。
運用基準では、以下のような方法で代金を定めることは、買いたたきに該当するおそれがあるとされています(取適法運用基準 第4-5-⑵参照)。
- 見積条件と発注条件の相違
- 大量発注前提の見積りを流用: 「1万個発注するから」と言って安価な単価で見積りを出させ、実際には100個しか発注しないのに、その安価な単価を適用する行為
- 量産終了後の単価据え置き: 量産期間が終わり、補給品として少量の発注しかしないにもかかわらず、量産時(大量発注時)の単価を一方的に適用する行為
- 一律のコストダウン強要
- 一律一定率の引下げ: 個別の事情を考慮せず、「全社一律○%カット」といった形で、一律に単価を引き下げて決定すること
- 予算ありきの価格決定: 中小受託事業者の見積りや市価を無視し、自社の予算単価のみを基準として一方的に低い単価を定めること
- コスト変動の無視・協議拒否
- 価格の据え置き: 労務費や原材料費が高騰しているにもかかわらず、その上昇分を価格に反映する必要性について協議することなく、従来どおりの価格に据え置くこと
- 理由なき回答拒否: 中小受託事業者からコスト上昇を理由に値上げを求められた際、価格転嫁に応じない理由を書面や電子メール等で回答することなく、価格を据え置くこと
- 短納期・仕様変更への不対応
- 短納期発注: 通常よりも短い納期で発注し、中小受託事業者に残業や休日対応等の費用増が発生しているのに、それを考慮せず通常の単価を適用すること
新しい禁止行為との関係(令和7年法改正)
令和7年法改正(令和8年1月施行)では、新たに協議に応じない一方的な代金決定の禁止(法5条2項4号)という規定が追加されました。
これまでは、価格が「著しく低い」場合に買いたたきとして規制されていましたが、新設された規定では、価格の水準にかかわらず、コスト上昇等の事情がある中で中小受託事業者が協議を求めたのに、「協議に応じない」ことや「必要な説明・情報提供をしない」まま一方的に価格を決めること自体が違反となります。
- 買いたたき:結果として価格が「著しく低い」ことが要件
- 協議拒否:価格の低さに関わらず、協議プロセス(無視や説明不足)自体が違反
実務上は、コスト上昇局面において協議を行わず価格を据え置けば、「買いたたき」と「協議拒否」の両方に該当する可能性が高くなります。
結び
買いたたきを回避するためのポイントをまとめます。
「買いたたきの禁止」のポイント
- 協議の形跡を残す:価格決定の際は、一方的に通告するのではなく、協議を行い、その経緯(議事録やメール等)を記録に残す
- コスト上昇への感度を高める:最低賃金の引上げや原材料相場の高騰など、外部環境の変化を無視して「前回と同じ」価格を強要しない
- 条件変更時は再見積りを:発注数量が減ったり、納期が短くなったりした場合は、前提条件が変わったものとして、単価の見直し(再見積り)を行う
「下請だから安くやって当たり前」という考え方をせず、適正な対価を支払い、サプライチェーン全体で付加価値を高めていく姿勢が求められています。
次の記事は、購入・利用強制の禁止についてです。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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