今回は、商標法を勉強しようということで、商標権の構成について書いてみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。
商標とは
そもそも「商標」というのが、わかるようなわからないような、いまひとつピンと来ないのが、最初の引っかかりであるように思う。
「商標」って、普通、日常生活で使わない言葉なので。そこで、最初の入りとして、ここのイメージづくりをしてみたいと思う。
ひとことで言うと、商標とは、「マーク」である。
こう書くと、まずは簡単かなと思う。(正確には語弊があるが、まずはこうかなと)
もうちょっとイメージを膨らませてみます。”それを見たときに何か決まったものを想起するマーク”のことを、「トレードマーク」といいますよね。ここでいう「マーク」は、この「トレードマーク」のイメージです。
このことは、法律の英名表記からもわかります。商標法は、英語だと「trademark law」であり、文字通り「トレードマーク」についての法律です。
さらに続けてみる。
会社は、ある商品を覚えてもらうために、特定の商品名(文字)やロゴ(図形・記号)やメロディーなどを、くり返し使う。CMなどをくり返し流すのもそうである。パソコンでも車でもピアノでも、たくさん思い浮かぶところかと思う。
そうしているうちに、その特定の文字やロゴを見たり、メロディーを聴いたときに、特定の商品が思い浮かぶようになる。この文字やロゴやメロディーが、「トレードマーク」つまり「商標」である。
これは、会社側からみると、営業努力によってコツコツと積み上げてきた業務上の信用が、マークに染み込んでいくような感じといえる。商品の品質向上などの努力とともに、商品を表す目印を覚えてもらう努力をして、他の商品との差別化を図る、つまり「ブランド化」していく、ということである。
ということは、こんなにコツコツ苦労して積み上げてきた業務上の信用を、勝手に使われてはたまらん!(=この大事なトレードマークを、他人に勝手に使われてはかなわん!)ということになる。
そこで、このトレードマークを権利化することによって、他人が商標を無断で使用することを防止しようとする、これが「商標権」のイメージである。
感覚的な例え話をすると、「ツッパリはヤンキーのトレードマーク」みたいな感じです。
これは、ツッパリという立体形状(マーク)によって、「俺はヤンキーだぜ」ということで、ヤンキーである自分とヤンキーでないその他大勢とを識別しているわけです。なにかのシンボルによって、自分と他者を識別する、という感覚です。
(現実の世界ではなくマンガの世界をイメージしていただければと。以下同じ)
最後に、もう少し正確な、かつ感覚的にもわかりやすい説明を引用すると、特許庁HPに掲載されているテキストで、以下のように説明されている。(「第4節 商標制度の概要」の冒頭)
商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。
(「知的財産権制度入門テキスト」〔2022年度〕(特許庁)75頁)
商標権とは
では、「商標権」は、「商標」とどう違いがあるのか?
ひとことで言うと、商標とは、「マーク」である。
そして、商標権とは、登録した「マーク」を独占的に使用する権利、である。
いわずもがな、商標権は、文字通り”商標についての権利”というわけだが、もう少し詳しくいうと、登録商標についての独占権である。
独占権とはどういうことかというと、自分で使用できることに加えて、他人の使用を排除できる(やめさせることができる)、ということである。
例え話の続きをすると、ツッパリをヤンキーのトレードマークにしたいと考え、日々ヤンキー仲間たちで髪型をツッパリにする努力を続けた結果、”ツッパリといえばヤンキー”がいい感じに認知されてきたな…と思ってきたころに、優等生にツッパリをされては困ります。スポーツ得意な人にも、ツッパリをされては困ります。ギャルにも、ツッパリをされては困ります。そうなると、ツッパリをしていてもヤンキーと識別できなくなってしまうからです(ヤンキーと、その他大勢を区別できない)。
そこで、ヤンキーは、ツッパリを権利化して、ヤンキー以外の者がツッパリをするのをやめさせることができるようにしました、これが独占権のイメージです。ツッパリはヤンキーの独占なのです。
商標権の権利範囲
商標権を把握する際に、もうひとつ重要なのは、商標権の権利範囲は、マークとそれを使用する商品・役務(=サービス)との組み合わせから構成される、ということである。
つまり、商標権は、マークだけを登録するわけではなく、「マーク」+「使用する商品・サービス」のセットで登録される、ということである。
商標権は、登録すれば無限の範囲で使用を独占できるわけではなく、登録のときに、その商標を使用しようとする商品・役務の範囲を指定することになっている(商標法6条1項)。
(一商標一出願)
第六条 商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない。
これを「指定商品・指定役務」という。
このあたりの説明は、特許庁のHPの解説がわかりやすい。
▽初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~|特許庁HP
https://www.jpo.go.jp/system/basic/trademark/index.html
「区分」とは?
そして、指定商品・指定役務を、全部で45のジャンルに分類したものが、「区分」です(商標法6条2項)。
「区分」は、世の中に無数に存在する商品と役務を(半ば無理やり)45のジャンルに分類するもので、第1類から第45類まであります。
第1類~第34類までが「商品」のカテゴリ、第35類~第45類までが「役務(サービス)」のカテゴリです。
特許庁HPで、商品・役務の区分が分かる資料として「類似商品・役務審査基準」が公開されていますが、膨大なページ数となっています。本記事ではとりあえず、当該ページのリンクをご参考まで貼っておきます。
▷類似商品・役務審査基準〔国際分類第11-2020版対応〕 令和元年11月
当該ページのなかで比較的わかりやすい、ざっくりと第1類~第45類を眺めることのできる資料は、以下の資料です。
▷「各類に属する商品及び役務の概要」
なお、指定商品・指定役務がいくつの区分にまたがるかによって、商標権をとるときに特許庁に支払う手数料が変わってきます。
不正競争防止法との比較
最後に、1つだけ余談トピックを。
商標を登録した場合には商標が権利化される(商標権という独占権が発生する)が、「では、登録していないマークは、どんなに頑張っていても保護されないのか?」という疑問が湧いてくる。
ここで出てくるのが、不正競争防止法である。結論からいうと、登録していなくても、一定の要件を満たす場合には保護されるケースがある。
なるだけかみ砕いた感覚的な言葉で、以下説明してみる。
商標が冒頭の方で書いたようなもの(自分と他者を区別するためにコツコツ信用を積み重ねたもの)であるなら、商標登録していなくても、法律で保護すべき場合ってありそうに感じると思う。登録していなければ、商標法上は保護されないわけなので。
登録され権利化されていなくても、他人がコツコツ苦労して信用を積み上げたトレードマークを勝手に使って(ただ乗りして)、自らの利益を上げようとする輩がいたら、それって「フェアじゃない」と感じる。
この「フェアじゃない」という感覚を、競争のルールという形で法律にしているのが「不正競争防止法」である。フェアじゃないもの、つまり「不正競争」にあたるものをいくつか列挙し、こういうことしてはダメですよ、という形で保護している。
商標権と関連するのは、2条1項1号の「混同惹起行為」と、2号の「著名表示冒用行為」である。
簡略的に書くと、
- 1号:混同惹起行為
他人のマークとして需要者の間に広く認識されている(周知性がある)ものと同一・類似のマークを使用して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 - 2号:著名表示冒用行為
他人の著名なマークと同一・類似のマークを勝手に使用する行為
という感じである。
キーワードは太字にした部分だが、1号と2号の違いは、2号の場合(つまり周知を超えて著名となった場合)は、混同を生じなくても禁止される、という点である。特に高い信用・名声・評判を有するに至った著名表示の場合は、著名表示の財産的価値が侵害されていることそれ自体が問題であって、混同が生じているかはもはや重要でなかろう、という理由である。
このように、不正競争防止法では、登録は要らない代わりに、実際に使用されることで「周知」とか「著名」といったレベルまで営業上の信用が化体していなければいけない、とされている。また、1号の保護は、マークが「周知」である地域に限定される。
これに対して、商標法は、商標に営業上の信用が化体しているかどうかを問わず、登録をすることによって、全国的な保護をあらかじめ与えている。
要するに、要件と、保護の範囲が違っているわけである。
結び
今回は、商標法を勉強しようということで、商標権の構造について書いてみました。
本記事のハイライトをまとめます。
- 商標とは、自分と他者を識別するためのマーク(トレードマーク)である
- 商標権とは、マークを独占的に使用する権利である
- 単に独占的に使用する権利ではなく、使用する商品・役務として指定した範囲内(指定商品・指定役務)での独占権である
- つまり、商標権の構成は、商標権=「マーク」+「指定商品・指定役務」+「独占権」である
参考文献
リンクをクリックすると、Amazonのページ又は特許庁HPの掲載ページに飛びます
主要法令等
リンクをクリックすると、法令データ提供システム又は特許庁HPの掲載ページに飛びます
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。